旅館の客室係が「仲居」さん。懇切なサービストークの裏に隠された本音を知ると、怖い一面が見えてくるかもしれない。

■「玉」「花」――心づけの本来の目的は賄賂だった!?

いまでは和風旅館でも横文字で「スタッフ」と呼んでいるところがあるけれど、昔ながらの「仲居さん」という呼び方は風情があっていい。おもてなしのプロである仲居さんの世界で使われる用語が興味深い。とある旅館で仲居頭(なかいがしら)も勤めたことがあるE美さんに聞いた。

「はじめに断っておきますけど、地方やお店によって違いはあります。独特のいい回しも、お客さんを不愉快な気分にさせないための配慮が基本です」

旅館に着いたら、仲居さんや番頭さんに渡す心づけを「花」とか「玉(ぎょく)」という。欧米のホテルやレストランでいうチップとは別物で、本来の意味は違うらしい。

「もともとは、いい部屋を割り振ってもらったり料理を早く出してもらったり、なにかと融通を利かせてもらうために渡す賄賂の一種だったようです」

もっともこれは昭和40年代中頃までの話で、今は心づけを受け取らない旅館が多い。

「心づけを渡さなくてもマナーに反するわけじゃないので、どうぞご安心を」

部屋に通されたら、案内してくれた仲居さんからこう尋ねられる。

「お風呂はお夕食の前になさいますか?」

これを意訳すると「お風呂は夕食前に入ってくださいね」となるのだそうだ。人手が慢性的に不足している業界なので、従業員は1人でいくつもの業務をこなさないといけない。

「さっさと入浴を済ませてもらって、早めにお風呂掃除を終わらせたいのです」

それでも、夕食のあとに入りたい客がいたら?

「あらかじめ入浴時間が決まっていることが多いので、たぶん『本日は終わりました』といって断られるでしょうね」

お風呂に入ってサッパリしたら、次は夕食だ。

でも仲居さんは忙しい。やっと捕まえてビールの追加を頼んだら「すぐ、おもちします」と気持ちのいい返事がかえってきた。

でも安心してはいけない。これは「用事を順番に片付けてから、忘れていなかったらもってきますね」という意味らしい。そういわれてみれば「すぐに――」といわれて、本当にすぐもってきてもらった経験は少ないような気がする。

夕食が済んだら、あとは部屋で飲みなおすか寝るだけ。そこへ仲居さんがやってくる。

「お布団を敷くのは、もう少しあとにいたしましょうか」

これは「いま布団を敷かせてくれ」ということ。そうしないと、仲居さんたちの仕事が終わらない。

■「どうぞ、ごゆっくり」といわれて本当にゆっくりしていたら嫌われる

布団を敷き終えた仲居さんが部屋を出る際、たぶんこう訊かれる。

「明日のお発ちは早いですか?」

ほとんどの旅館は食事の時間が決まっているから、自分たちの都合で早めに出発したくても、朝食の支度時間に間に合わない場合がある。

つまり「あんまり早いのは困ります」ということ。だから「ごゆっくりお休みください」とあいさつして出ていく。もちろん本音から「ゆっくり寛いでほしい」という気持ちの表れもある。だが場合によっては、「早く起きて、朝ごはんを催促しないでね」という意味を含んでいることもあるというから、理解がなかなか難しい。ただし前もって申し込んでおけば、柔軟に対応してくれる場合もある。

ところが、これと正反対の意味で「ごゆっくり」といわれることがあるという。

「たとえば、お風呂に入るのが、終了時間ぎりぎりの遅い時間になってしまったときに『ごゆっくりどうぞ』といわれたら、別の意味になるかも。『仕事が終われないから早くあがってね』ということです」

丁寧な接客用語の裏に隠された本音を知れば知るほど怖くなってくるが、だからといって仲居さんが発するすべての言葉に裏の意味が隠されているわけではない。

「お客さんに不愉快な思いをさせないための、心づかいが大前提にあります。お客さんを小バカにしたり疎んじたりしているのではありませんからね」

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)