サルはなぜ電線を渡ったのか 現地を訪れてみた

サルはなぜ電線を渡ったのか 現地を訪れてみた

 青森県でサルの群れがケーブルを器用に伝いながら移動する様子を撮影した映像がツイッターに投稿され、話題を呼んだ。その仕草の可愛さもあって再生回数は既に100万回超。地元の住民にとっても珍しい光景だというが、現地を訪れるとまた違った「サル事情」も見えてきた。【一宮俊介】

 映像が撮影されたのは、まさかり形をした北東部・下北半島にあるむつ市。7日、雪原の上に張られた2本のケーブルにサルが手足をかけ、連なるように東へ渡っていく様子を住民が収めていた。あまりのサルの多さに撮影者が「ありえねえで」と驚く声も入っていた。

 現場は住宅が点在する雪原だ。NTT東日本青森支店によると、サルが渡っていたのは電話線と光回線のケーブルで、感電の心配はない。見上げると思った以上に高く、10メートル近くはある。視線を落とすと、雪の上に茶色の点が続いていた。上を通ったサルのフンだ。

 近所の男性は「数匹のサルがケーブルを渡る姿はよく見る。トウモロコシを片手に持って器用に伝っていくサルも。だけど、あれだけの数には俺もびっくりした」と話す。

 下北半島は野生のニホンザルが生息する最北端で「北限のサル」として知られる。むつ市の鳥獣対策官、櫛引道彦さん(60)によると、半島内には69群れ約2600匹が生息。撮影されたサルは「A2―85群」と呼ばれ、約60匹いるという。

 なぜケーブルを通ったのだろう。櫛引さんは「理由はいくつか考えられる」と話した。

 映像が撮影された前日、現場から西にある川の向こう側にいる群れの姿が確認されていた。「ケーブルを使わずに川を越えるには遠回りしなければならない。雪の上に足跡がないことを考えると、ケーブルを伝って川を渡り、そのまま撮影された場所を通ったのでは」と推測する。

 「地上で人や犬に遭遇しないため」「雪の上を歩くのは冷たいからかもしれない」とも櫛引さんは語るが、真相はサルにしかわからない。一つの群れが一斉に渡った姿は映像を通して「初めて見た」といい、現地でも珍しい現象だったようだ。

 記者が訪れた10日、この群れには出合えなかった。現場から離れた山中に移動したらしい。トコトコとケーブルを渡るサルの映像に癒やされた人も多いかもしれない。ただ現地に来てみると、違う側面も見えてきた。住民とサルとの戦いだ。

 「北限のサル」は学術的な価値も高く、国の天然記念物に1970年に指定された。当初は200匹に満たなかったが、繁殖が進み生息数とエリアが拡大。その数は約13倍まで増えた。

 数が増えるとともに、畑のトウモロコシを食べられたり、住宅の窓から侵入されたりする被害も多くなった。むつ市内で地区会長を務める布施啓治さん(70)は「昔はカボチャを両手で抱えながら走るサルの姿をめんこいなと思っていたが、今は迷惑。明日作物を収穫しようと思っていると、なぜかその前日の夜に取られる。(映像を)見るだけだといいが、農家にとっては天敵だ」と話す。

 天然記念物のサルたちをむやみに捕獲できないため、半島内の市町村は「猿害」の防止に力を入れている。

 むつ市は、サルの行動を見張る監視員を季節により最大16人配置する。被害が多い夏は多く、雪に囲まれる冬は少ない。群れごとに数匹ずつ居場所を確認できる発信機を装着したり、サルを追い払うために訓練を受けた犬「モンキードッグ」を活用したりして、住宅街や畑にサルが入らないように神経をとがらせる。

 ツイッターで大きな話題を呼んだ「北限のサル」。その背景には、猿害に頭を悩ませながらも共存する住民の姿があった。


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