昨年の台風19号の教訓を生かそうと、長野県は大規模水害発生時に地域内の声掛けで避難を促す「率先安全避難者」を導入する。全国で津波を想定した事例はあるが、河川氾濫など水害に備えた導入は珍しいという。今秋までに1000人程度に研修を実施し、「逃げ遅れゼロ」を目指す。【島袋太輔】

 台風19号では、長野市長沼地区の千曲川堤防などが決壊し、1700人以上が自宅に残され救助された。国などのアンケートによると、避難しなかった理由は「被害に遭うと思わなかった」63・5%、「これまで被害に遭わなかった」42・5%と危険性を過小評価する「正常性バイアス」の影響とみられる回答が目立った。

 一方、避難したきっかけは「近所の人や自治会の声掛けがあったため」が23・7%と目立った。そのため、県危機管理防災課は「リスクを気付かせる『トリガー情報』を住民に与えたい」と、「率先安全避難者」として地域内で積極的に避難の声掛けをする役割を住民に担ってもらう。数十軒に1人程度を想定し、市町村が地区役員や民生委員、消防団員を指名する。千曲川や天竜川流域で、被害の大きい浸水予想区域を優先して導入する。

 同課は「水害は避難までのリードタイム(事前所要時間)が読みやすい」とする。研修では、氾濫危険水位や上流域の降水量など避難の判断基準となる情報の入手方法を教える。これまでの水害発生時は有志の呼び掛けで避難を促していたが、役割を設定してシステム化したい考えだ。呼び掛けの対象は浸水予想区域の全住民。

 この取り組みは、県が進める「逃げ遅れゼロプロジェクト」の一環。アンケートで、昨年10月12日、長野市長沼地区に避難勧告が発令された午後6時より後の、越水の約1時間半前(同11時40分)に出た避難指示を機に避難した住民が多数を占めたことが分かった。県は、避難の準備に1時間ほどかかるため「安全に避難するのは避難勧告が発令されたタイミング」と指摘し、市町村と連携して防災対策を強化する。

 長沼地区住民自治協議会の西澤清文会長は「地域内で影響力のある人が率先安全避難者に指名され、声掛けされると避難がスムーズに進む」と期待する。県危機管理防災課の担当者は「台風19号では早く避難していたら自宅に取り残されて怖い思いをせずに済んだ。避難を後押しするような制度設計を目指したい」と話す。