”定年延長とシニア層の就業意向”

健康寿命が長くなる中で、老後の生活に不安を抱える人が増えています。こうした社会状況を背景に、定年後も働きたいと願うシニア層も増加しています。

この記事では、定年後の働き方に関する意識調査をもとに、今後予想される社会構造の変化と、定年延長に対する企業側の対応策について解説します。

もっと働きたいシニア層

ディップ総合研究所が2020年8月に行った「55〜64歳定年後の就業意向調査」によると、現在就業中の55〜64歳のうち57.8%が、定年後も働きたいと回答しています。

主な理由としては、生計維持や家計の補助など収入を維持する目的が多く、働くことが好きといった意見もありました。

また就業先は現在の職場を希望する割合が63.7%となり、現在と同じ業種と職種をそのまま続けたいという意向がはっきりと表れています。

高年齢者雇用安定法の改正

定年後の再就職を求める声に応じるように、2021年4月には「改正高年齢者雇用安定法」の施行が決まっています。この改正法の主旨は、現行65歳までの定年を70歳まで引き上げることです。場合によっては、定年制度の廃止さえも視野に入れているようです。

改正法には雇用以外の措置として、70歳まで継続的に業務委託契約を結ぶ制度と、同じく70歳まで社会貢献事業への従事を促す制度も盛り込まれています。どちらの制度も、定年前の事業主との間で委託契約を結ぶ形態になるでしょう。

継続雇用制度との連携

定年後の再雇用を促進する動きは、政府が先導する継続雇用制度がベースになっています。政府としては、今後段階的に年金受給年齢を引き上げる意図があり、その受け皿として継続雇用制度の充実を図っていると考えられます。

継続雇用を求める高齢者と、それを受け入れる事業主に対しては、現在さまざまな助成制度が導入されています。改正された高年齢者雇用安定法は、継続雇用制度と連携しながら、70歳定年制度を根付かせる役割を果たすのではないでしょうか。

定年延長の問題点

定年後の再就職では、企業側の待遇も定年前とは変わります。定年前の役職を継続することはできず、何よりも賃金体系が変わり給与が下がることは避けられません。その状況で就業者のモチベーションを維持できるのか、という問題が生じるかもしれません。

また健康寿命が延びたとはいえ、70歳に近づけば誰でも体調不良を感じるようになるでしょう。

それが業務の遂行に影響する場合も考慮しなければならず、企業としては社員の健康管理に対して、今まで以上に力を注ぐ必要が出てきます。

定年延長による企業側のメリット

いくつかの問題点はあるにせよ、定年延長は企業にとってプラスになることも事実です。まず慢性的な労働力不足にある現状では、定年延長が労働力確保につながることは間違いありません。

しかも新入社員とは違い、再就職した社員はすでに業務に精通した熟練者です。雇用形態は変わるにしても、企業にとっては業務レベルを安定的に維持できるというメリットがあります。新人教育にかかる手間もコストも削減できるでしょう。

賃金体系が変わることは、再就職する側にとってはデメリットですが、企業側からすると賃金コストの削減にもつながります。定年延長と新入社員の受け入れをバランスよく行えば、業績を上げながら経営コストを下げることができるかもしれません。

定年延長に対する企業側の対応は?

定年延長の問題点を考慮すると、企業側でも新しい仕組みをとり入れる必要があります。再雇用された社員は非正規雇用になるため、定年前と同じ賃金体系は難しくなります。

しかし労働意欲を維持するためにも、労使間で充分に協議をした上で、社員が納得できる内容で契約をすることが重要です。

もう1つ重要なポイントが、高齢者に合わせた柔軟な勤務形態の導入です。

勤務日数や勤務時間について、社員が選択できる仕組みにすることもひとつの方法です。同時に高齢者でも安心して働ける環境整備も必要になるでしょう。

そのほかにも人事制度の見直し、退職金制度の見直し、雇用契約の整備なども必要に応じて進めなければなりません。また就業規則を変更する場合には、労働基準監督署への届出も必要になります。

こうした取り組みで企業側の負担が増えるようなときには、高齢者雇用に関する助成金制度を有効活用するとよいかもしれません。受給要件もそれほど厳しくなく、ある程度の受給金額も保証されるので、積極的に検討することをおすすめします。

まとめ

今後の日本社会では、高齢者も含めた労働環境作りが大きな課題になるでしょう。これは継続雇用を求める労働者と、それを受け入れる企業側が共に考えるべき問題です。

人材不足が深刻化する中で、経済を正常に維持するためにも、定年延長とそれを支える環境整備を、今後社会が一丸となって推進する必要があるでしょう。