財務省広報誌ファイナンスに、財務総合政策研究所職員からの寄稿文として「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大後の産業構造の方向性」が掲載されています。日本企業の労働生産性を踏まえた分析など、日本経済が抱える課題にも触れているので、そのポイントを整理してお届けします。



カギとなる労働生産性の向上

新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受け、IMFのWorld Economic Outlook(June2020)による日本経済の2020年実質GDP成長率の見通しはマイナス5.8%となっています。

経済を回復させるためには、何よりも感染症拡大を早期に収束させる必要がありますが、それと同時に、日本が抱える人口減少・超高齢化という構造的な課題にも対応していかなければなりません。

人口減少・超高齢化社会であっても、持続的な経済成長を続けていくためには、労働生産性の向上が欠かせない要件となります。労働集約的な産業や低賃金の産業は、とくに感染症拡大の影響が大きいことから、ICTを活用したビジネスモデルをさらに構築していくことが求められます。

企業規模が大きいほど労働生産性が高い

日本企業の生産性が低いのは、小規模企業が多いことが要因の一つとされています。株式会社東京商工リサーチのデータから分析した結果でも、企業規模が大きいほど労働生産性が高いという結果が出ています。

つまり、生産性向上を目指すためには企業規模の拡大が求められますが、製造業は非製造業に比べて平均的に高い労働生産性を示す一方で、非製造業は産業間で労働生産性のばらつきが大きいことも明らかになっています。

業種・企業規模による労働生産性のばらつき

日本企業の労働生産性に関する分析では、それぞれの業種においてどのくらいの労働者がどの程度の規模の企業で働いているかを示しています。

たとえば、情報通信業では、500人以上の企業で働いている従業員が全体の約半分を占めていますが、建設業は従業員数1〜4人の小規模企業で働く従業員の割合が1割超となっています。

従業員が大企業に集中している業種と、多数の中小規模企業が存在する業種があり、業種によって企業規模のばらつきが大きいというのが、日本の産業構造の姿です。

業種別・企業規模別の労働生産性

「平成28年 経済センサス−活動調査」から分析した業種別・企業規模別の労働生産性をみていくと、製造業や情報通信業、卸売業、建設業など労働生産性が高い業種がある一方、小売業や飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業、宿泊業などは、労働生産性の水準が比較的低い傾向を示しています。

たとえば小売業、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業では、どちらも一定の企業規模までは労働生産性が高くなっていますが、それ以上の規模になると低下しています。企業規模と労働生産性との相関が弱いのです。

これは、小売業、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業では、正社員比率が総じて低いことが原因の一つであるようです。正社員と非正規社員の賃金等の待遇格差が、労働生産性の違いの背景にあるのではないかと考えられています。

企業を規模別・業種別に分けて分析を行った結果から判明したのは、「ICT装備率が高まるほど労働生産性が高まっていること」、「企業規模が大きくなると労働生産性が高まる傾向があること」、「企業規模が大きくなっても労働生産性が必ずしも高くならない業種がある背景の一つとして正社員比率の違いが考えられること」です。

これらの結果から、今後の日本経済のあり方について検討する場合、企業規模が一つの重要な要素であると考えられます。とりわけ小規模企業が多い業種ほど、企業規模の拡大やICT利用などに取り組んでいかなければならないようです。

まとめ

人口減少・超高齢化という構造的な課題を抱える日本ですが、それを乗り越えて持続的な経済成長を続けていくためには、労働生産性の向上が何よりも重要です。一方、正社員比率の差が労働生産性低下の背景にある可能性も否定できません。同一労働同一賃金、正社員と非正規社員の格差解消など、コロナ対策と合わせて、日本企業には課題が山積しているようです。