昨年12月27日に閉店した種苗店「トキタ園芸」(春日部市粕壁3)が4月末で会社を整理し、建物も間もなく取り壊されるなど、歴史に幕を閉じようとしている。(春日部経済新聞)

 【写真】大正時代に設けられたエレベーターは今も現役

 1908(明治4)年に種苗商店として創業し、多くの客が訪れていた同店だが、一昨年の夏、3代目の時田恒雄社長が急逝。従業員として15年ほど働き、店の後見人となった中曽幸代さんは「昭和50年代、お盆明けには、ホウレンソウやダイコンの種を買いに来るお客さんが店外に長蛇の列を作っていた。1日に300人くらいは来店していたと思う」と振り返る。
 
 一番多い時には従業員が50人ほどいたことも。年3回、「チューリップ祭」「カーネーション祭」として、無料で花を提供していたこともあるという。中曽さんは「カーネーションは、母の日に合わせて1人1鉢を無料で提供していた。400鉢くらいはあった。時田社長は、お客さまに還元することばかり考えていた」と話す。

 顧客が店や近隣で手に入らないような種が欲しいと言えば、全国から取り寄せるなど顧客のために奔走した。「お客さまの相談には100%応じていた。困った人のためには自身の裁量でいろいろやっていたと思う。急逝する4日ほど前にも、市内に提供した桜の木に肥料をやらなきゃと心配していた」

 時田社長は、20種以上の新品種の開発も行い、農林水産大臣賞に輝いたことも。2008(平成20)年には農業振興に寄与したとして黄綬褒章を受章した。「私は、(時田社長のことを)平成の二宮金次郎だと思っている。勤勉だし、誰かに褒められようとして行動しない、私利私欲の無い方だった」と中曽さん。

 壁一面がツタで覆われ、時の流れを感じさせる同店は明治時代に建てられた。大正時代に設けられたエレベーターは、今でも3階に荷物を運ぶ時などに使われているが、同店が立つ土地は道路拡張のための道路用地となっており、今後解体されるという。

 中曽さんらは、「こんなに愛された店を閉めてしまうのは残念でならない」と、別の場所で店を続けたいと考えたものの後継者が見つからなかったため、決算月の4月で会社自体も整理することにした。店内には現在、在庫品や社長が40年ほど掛けて集めたこけしや時計などの愛蔵品を並べている。

 従業員と共に店を手伝う柴田芳見さんは時田社長の友人で、30年ほど前に知り合ったという。「社長は自分と同じで古物収集が趣味だった。思い出がたくさんありすぎて、『一番の思い出はこれ』とは言えない。自分は絵を描くのが趣味だが、描いた絵を見せると、喜んでくれていた」と目を細める。

 
 中曽さん、柴田さんや残った従業員2人は4月末まで店にいる。店内には、今年の新年会で関係者が店に集まった際、「社長、見守ってくれよ」と柴田さんが、その場にあった段ボールに描いた社長の絵が愛蔵品と共に飾られている。

 店は4月30日まで、開放する予定だという。