「ぜひ、65歳まで会社に残って後進の指導にあたっていただきたい」──中堅の専門商社の営業課長B氏(62)は、役員のそんな言葉を意気に感じて定年後もフルタイム勤務の嘱託社員として再雇用の道を選んだ。同期10人のうち残ったのは3人、いずれも営業職だった。

 役職手当はなくなり、基本給も少し下がったが、やりがいを感じたB氏は元部下を連れて自分が開拓した取引先をまわり、営業のノウハウを教えた。ところが、1年後の契約更新の席で提示されたのは給料の大幅ダウン。

「そろそろ時短勤務で楽をしてはいかがですか」と言われた。会社側は、取引先を若手に引き継がせたかっただけなのだ。

 B氏は退職。同期3人のうち2年目も契約更新したのは1人だけだった。営業成績は大差なかったのになぜ、残れたのか。B氏は退職後にその同期と飲んだ時に尋ねた。

「彼は気難しい社長のいる大口取引先をあまり優秀じゃない若手に引き継がせたそうです。すると案の定、社長を怒らせてしまい、課長にも収拾できない。困って泣きついてきたから、彼が間に入って取引を続けられることになった。“会社に必要な人材”であることを印象づけたわけです。再雇用は不安定だから滅私奉公では生き残れない」

 65歳までの雇用延長が義務化されたとはいえ、現実には会社に再雇用されてもかつての部下からは厄介者扱いされ、パートがやるような仕事しか与えられない。耐えられなくなって1〜2年で辞めるケースが少なくない。

 そんなときはどうすればいいのか。大手事務機器メーカーを定年退職したC氏(66)は子会社に「アドバイザー」の肩書きで再雇用された。

 しかし、3か月もするとアドバイスすることはなくなり、完全な窓際。いるかいないかわからないから、女性社員からは陰で“妖精さん”と呼ばれた。一時退職も考えたが、途中から発想を変えることにした。

「仕事をしなくて65歳まで給料をもらえるわけです。ならば、あり余る時間と、これまでのビジネス情報の蓄積を使って65歳からの転職の準備をしようと考えました」

 C氏は新規ビジネスのプランが採用されて65歳で晴れて転職に成功した。

※週刊ポスト2020年3月27日号