外出自粛要請が出て以降、テレワークを導入する企業が増えているが、実際に導入した企業はどのような苦労を乗り越え、そして定着させていったのか。ここでは、ネクスト・プラス(長崎市諫早市)の事例を紹介しよう。

ITツールの設備投資には国の助成金も活用

 ネクスト・プラスは長崎県諫早市にある会計事務所。テレワーク導入のきっかけは、代表の東大智氏の自宅が長崎市にあり、オフィスに出社しなくても仕事ができたら、というシンプルな願いからだった。東氏が語る。

「2017年にオフィスを新築したのですが、計画の段階から社員全員分の座席を用意せず、オフィスでなくても仕事ができるようにする、という方針を掲げました。クラウドサービスやクラウド会計ソフトが出回り始めたのもよいタイミングでした。設備投資には国のテレワーク推進助成金も利用しました」

 会計事務所の業務は顧問先の記帳業務と決算書作成がメインだ。元となる資料は顧問先にあり、集計と入力は自宅でもできる。オフィスには慣例として通っているだけで、なくても問題ない、というのが東氏の考えだ。

 しかしスタッフには戸惑いもあった。今までオフィスでするのが当たり前だった業務を、どうすれば在宅勤務で可能になるのか分からない。

「そこで、スタッフ3〜4人でテレワーク導入のトライアルチームをつくって課題を洗い出し、全社的なテレワークの仕組みをつくり上げていきました。自宅にネット環境が整っていないスタッフにはモバイルWi-Fiの貸し出しも行いました」(同社の本多由美子氏)

 テレワーク導入にはもうひとつハードルがあった。紙の資料の存在である。顧問先から入手する帳票類などの資料はFAXかコピーだったのだ。そこで同社では、顧問先に資料のもらい方の変更を依頼した。テレワークを推進するためには顧問先の協力が不可欠と判断したからだ。

「クラウドでやり取りする電子会議室を導入し、紙でもらっていた資料は写真かPDFでもらうようにし、手書きの資料はエクセル入力への変更をお願いしました。FAXはインターネットFAXを利用することでPDF変換され、メールで届くようになりました」(東氏)

スタッフ全員にノートPC・iPadを支給

 現在ネクスト・プラスでは、インターネットにつながるノートPC、iPad、ガラホ携帯の3つのデバイスを全スタッフに支給し、全員が在宅勤務を行える環境をつくっている。これにより、iPadで顧問先の情報を見ながらノートPCでクラウド会計システムに入力したり、ノートPCでデータを確認しながらiPadでコミュニケーションを取る、といった仕事スタイルができ上がった。

 出社するスタッフとテレワークを行うスタッフのスケジュール調整はどうやっているのか。会社としてバランスよく業務を行うためには、決まった曜日にテレワーク希望者が集中することは避けたい。同社ではスタッフ全員のテレワーク希望日をリスト化したうえで実施日を分散。その一覧をクラウド上に保存し、スタッフにはそのリンクをチャットで流すという仕組みをつくった。社内メールはほとんど使用しない。

 テレワークを推進するためには社内のペーパーレス化と承認プロセスのデジタル化も必要だが、「すべてをペーパーレスにするのは難しい。完全を目指さず、できるところからデジタル化すればよい」と東氏は話す。同社では現在、日報やスケジュール、有給休暇などの申請と承認などのデジタル化や、クラウド上でのスタッフ行先掲示板運用などを行っている。

業務の取り組み姿勢にメリハリが生まれた

 ネクスト・プラスではテレワークを導入したことで、どのような変化が生まれたのか。

「通勤時間が短縮され時間のゆとりが生まれました。片道1時間近くかけて通勤しているスタッフもいるのでテレワークを1日取り入れるだけでも大きなメリットが生まれています。オフィスでする業務と在宅で行う業務をスタッフ自身が振り分けるようになり、メリハリをつけて仕事に取り組めるようになりました。テレワークでは姿が見えない分、結果を出そうという意識づけもできているように感じます」(本多氏)

 同社では、テレワーク実施日にはスタッフが全体チャットに「今日の業務目標」を始業時に宣言、終業時には「業務振り返り」で1日の成果を報告する仕組みをつくっており、それがスタッフの意識の変化を後押ししているようだ。

 また、同社がある九州北部では近年台風などによる大雨被害が頻発したが、不測の事態に対する柔軟な対応もできるようになった。その効果は今回のコロナ禍でも発揮されている。

「働き方が選択できることが大事。テレワークを100%にするのではなく、出社したいという選択も尊重したい」という東氏。同社では2020年2月からフレックスタイム制度を一部導入。テレワークで「場所」、フレックスタイム制度で「時間」の自由度が増している。

※週刊ポスト2020年8月1日号増刊『ゼロから始めるテレワーク最強攻略ガイド』より