これから始まる秋冬シーズンを前に、新型コロナ第3波のみならず、インフルエンザの流行も懸念されている。外出時にはマスク着用が欠かせない状況が続きそうだ。一時期の品薄状態を経て、最近では店頭で見かけることが多くなった不織布製の使い捨てマスク。最近では買い占めは大きな問題とはなっていないが、「つい買いだめしてしまう」という人もいるという。その1人に、フリーライターの吉田みく氏が話を聞いた。

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「正直、いくらあっても不安です。自宅にはたくさんあるのですが、ついカゴに入れてしまいます」──そう語るのは、埼玉県在住のパート主婦・伊藤京子さん(仮名・41歳)。製造元は問わず、使い捨てマスクを見かけるたびに購入している。最近では店頭で見かけることが多くなってきたこともあり、自宅には未開封のものが20箱以上もあるそうだ。

 具体的な購入数は覚えていないとのことだったが、よく見かけるようになり始めた8月あたりからは、1箱30枚入りを10箱ほど追加購入したとのこと。4人家族のため、消費量は多くても1か月あたり4箱程度(約120枚)だが、「念のため多めにストックしている」(伊藤さん)のだという。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止の取り組みとして、マスクの着用が求められている。特に、使い捨てマスクは安価で、使用後は捨てることができるため、衛生面からみても優秀である。しかし、コロナ禍以降は使い捨てマスクの生産や輸入が追い付かず、今年春には店頭からマスクが消えた。入手するために早朝からドラッグストアの店頭に長蛇の行列ができ、インターネットの通販サイトで1枚50円以上の値がつくのはザラだった。一部で買い占め・転売が横行し、1枚100円以上の値がついたこともある。

 今年2月末から製造・抽選販売がスタートしたシャープ製マスクは、50枚入りで3000円以上。それに加え、送料660円がかかる。1枚あたり60円以上するマスクではあるが、現在でも当選するのは難しいといわれているほど人気がある。現在、使い捨てマスク自体はだいぶ出回るようになってきてはいるものの、全国マスク工業会・会員マークの証がついた日本製の使い捨てマスクは、まだ簡単には手に入らないことが多いようだ。

 最近では布マスクを着用している人も増えており、ファッション性の高いデザインも増えてきている。洗って使えて経済的、自分に合ったサイズで作ることができるなどのメリットもあるが、ウイルス対策の観点からは不織布製に比べて機能が落ち、洗い方に気を付けなくてはいけないなど、使用には注意点も多い。

「使い捨てマスクはトラブルの元」

「使い捨てマスクをストックしている話、つい最近まで家族にも秘密にしていました」(伊藤さん、以下同)

 使い捨てマスクをたくさん持っていることを知られると、『ちょうだい』と言われてしまうのではないかという不安を感じていたと伊藤さんは言う。「せっかく私が集めたのに、簡単に欲しいっていわれたらたまりません」

 伊藤さんがここまで使い捨てマスクに執着するようになったのには理由があった。

 それは、品薄状態が続いた今年4月の出来事。伊藤さんはドラッグストアを中心に、一日中使い捨てマスクを探して歩き回った。しかし全く手に入れることができなかったそうだ。そんな折、ご近所さんが「2日連続で買えちゃった〜」と、自慢してきたという。

「凄く羨ましかったです。あわよくば1枚もらえないかなと思ったくらいでした。でもご近所さんは自慢するだけ。どこで購入したかも教えてくれなかったんです。使い捨てマスクはトラブルの元だと思いました。だから、周囲に話しても良いことがないと思うようになったんです」

 それ以来、伊藤さんはマスクを手に入れても誰にも話さなくなった。「家族とはいえ油断できません。『友達にあげてもいい?』とか言われたら大変ですからね」

 しかし、伊藤さんは使い捨てマスクの存在を家族に隠しきれなくなった。購入しすぎて家計が赤字になってしまったのだ。安いもので1箱500円程度、高くても1000円あまりのものとは言え、見かけるたびに購入し続けていれば大きな金額になってしまう。

「雑費のためのお金を、ほとんどマスク代に充ててしまって……。しかたなく夫に報告したら、『なくなるまで買うのをやめろ!』と、強く言われてしまったんです。でも、そう言われるのは想定の範囲内。なくて困るのはあなたじゃなくて? って思います」

 これからの季節、新型コロナウイルス以外の、風邪やインフルエンザウイルスの流行も始まる。こんな季節が始まるからこそ、使い捨てマスクはストックしておくべきではないのかと、伊藤さんは夫に少し怒っているようだった。

「夫や子供が毎日清潔なマスクを着用して出社できるのは私のお陰です。無ければ『無い!』と騒ぐのは目に見えています。次は食費からマスク購入代を捻出し、これからの季節に備えていきたいと思います」

 夫と口論になってしまった使い捨てマスクストック問題だが、伊藤さんは、今後も購入を控えるつもりはないという。

 使い捨てマスクに限らず、アルコール消毒液やハンドソープ、うがい薬などの新型コロナウイルス対策に役立つ商品が買い占められたり、店舗から在庫がなくなったりした。またいつ在庫がなくなるのではないかなどの不安はあるかもしれないが、皆が必要な分だけ購入する節度を保てば、供給不足になる心配は少ないともいわれている。

 新しい生活様式の一つとして取り入れられているマスクの着用。当分の間、使い捨てマスクに関するトラブルは続きそうだ。