公開されたアニメーション映画は歴史的な大ヒットとなり、社会現象的大ブームとなっている漫画『鬼滅の刃』(集英社)。一体何が、人々を魅了しているのだろうか。

『鬼滅の刃』のストーリーにふんだんに盛り込まれているのが「家族」という要素だ。主人公の炭治郎は、鬼になってしまった妹・禰豆子を救うために、すべてを投げ打って命を顧みずに戦う。理由は“血がつながった家族だから”。そこには無償の家族愛がある。

 炭治郎と妹の禰豆子のきょうだい関係や、鬼殺隊の仲間たちの家族関係だけではない。宿敵である「鬼」たちにも、家族が丁寧に描かれる。たとえばコミックス第5巻では、鬼殺隊に倒された「鬼」が、事切れる間際に人間だった頃の記憶を取り戻して初めて両親の深い愛に気づき、懺悔するというシーンがある。作家の橘玲さんが分析する。

「現代日本では、“当たり前の家族像”というものはもはや存在しません。離婚する夫婦は年々増え、一生を独身で過ごす人も少なくない。家族関係で悩む人も多い。無償の家族愛は手に入れようとする目標ではなく、虚構とわかったうえで楽しむものになったのかもしれません。

 また、現代においては『お父さんもお母さんもいて幸せです』というホームドラマはもう成立しません。“壊れた家族”の方がリアリティーがあるからこそ、妹が鬼になってしまった“家族”を回復させる物語が幅広い人に受け入れられたのではないでしょうか」

 昨今では珍しいことだが、『鬼滅の刃』には「男だから」「長男だから」という表現がしばしば登場することも特徴の1つだ。炭治郎は鍛錬中、《どんな苦しみにも黙って耐えろ お前が男なら 男に生まれたなら》と叱咤される。厳しい戦いのなかで《俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった》とこぼす。

 ともすると時代錯誤と言われかねないのに、なぜ多くの女性ファンも取り込むことができたのか。相模女子大学客員教授で『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ新書)著者の白河桃子さんが言う。

「男女の機会均等や女性の活躍が叫ばれる現代でも、実は“生活力のある男性に養ってほしい”と考える女性は意外に多い。以前、私が行った調査では、女子大生の実に44%が『隠れ専業主婦願望』を持っていました」

「長男だから」「男は家族のために」と必死に頑張る炭治郎、自らの命を危険にさらしても女性たちを守る鬼殺隊のリーダー格の「柱」たちの姿にいまは珍しい“頼れる男性像”をみているのかもしれない。

 コロナ禍で若い女性の貧困はますます進んでいる。経済全体がしぼめば、まず苦しむのは非正規で働く女性たち。まさに『鬼滅の刃』の禰豆子のように、“頼れる兄”を社会全体が欲しているのだろう。橘さんも続ける。

「少子化が進む現代では、そもそも『長男』という存在が希少。いまあえて持ち出された『長男』という概念は、若い人たちにとって時代劇のようなおもしろさがあるのかもしれませんね」

※女性セブン2020年11月5・12日号