緊急事態宣言の下で日経平均株価が約30年ぶりに3万円の大台を回復した。コロナの感染拡大が始まった昨年3月には一時1万6000円台まで落ち込んだが、そこからわずか1年でざっと2倍に急騰。証券ストラテジストの間では年内にバブル絶頂期の史上最高値3万8915円を超え、「株価4万円」に達するとの見方まで出ている。

 これに舞い上がっているのが他ならぬ菅義偉・首相だ。「3万円は目標の目標のまた目標だった。感慨深いものがある」(2月17日の衆院予算委員会)と、まるで自分の手柄のように喜んでいる。

 しかし、株価急騰の理由は景気が悪いからだ。コロナショックで昨年の日本の経済成長率はマイナス4.8%。とくに個人消費は5.9%減と大きく落ち込んだ。経済ジャーナリストの荻原博子氏が語る。

「日本をはじめ世界各国はコロナ対策で大規模な金融緩和と財政出動を行ない、各国のコロナ関連の財政出動の総額は昨年末には1445兆円にのぼっている。それが空前のカネ余りを招いた。普通、カネ余りは好景気の結果として起こるが、現在は不景気なカネ余りで人為的なものです。行き場のない資金が株式市場や金、ビットコインなどの仮想通貨に流れたことで相場が急騰している」

 日本特有の金融政策も株高に拍車をかけた。日銀による株の買い上げだ。

「日本の株式市場が諸外国と違うのは日銀が上場投資信託(ETF)を大量に購入して株価を買い支えてきたことです。ETFは日経平均などの指標に連動するように複数の株をセットにした金融商品で、日銀は時価約45兆円分の日本株を保有している。いまや東証一部上場企業(2194社)の8割の企業で日銀と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が事実上の大株主になっています」(同前)

 そうした買い支えで、歪な株価が形成された。日経平均は基本的に東証一部上場企業のうち大企業225社の株価をもとに計算される。

 ただし、それぞれの銘柄の値動きが日経平均に与える影響は異なる。1株あたりの価格が低い株が値上がりした時より、それが高い「値がさ株」が値上がりした時のほうが日経平均の上昇率は大きくなる。つまり、日経平均を上昇させるにはファーストリテイリング(ユニクロを展開する持ち株会社)などの「値がさ株」を買うのが効率的なのだ。

 法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が指摘する。

「日本株は世界の景気に敏感で、世界経済が良くなれば株価が上がる構造がある。そこで海外のヘッジファンドは、新型コロナワクチンの有効性が確認されたことで、世界経済が回復するという見方が広がった昨年11月頃から日経平均の先物を仕込み、そのうえで値がさ株に買いを入れ日経平均をつり上げ、大きな利益をあげたという一面がある。そういうことができる日経平均は、日本市場の株価動向を正確に反映した指標とはいえない面があります。投資のプロはみんなわかっています」

 日銀がどんどん買い入れた日経平均連動型のETFにはファーストリテイリングなどの値がさ株が多く組み入れられており、昨年10月末時点で同社の株の約2割を日銀が実質的に保有していると試算されている(日経QUICKニュース、2020年12月10日付)。

 菅首相が誇る株価3万円の内実は、「経済の実態を反映していない官製相場」(荻原氏)なのだ。

※週刊ポスト2021年3月12日号