親が残してくれる最後の“贈り物”である遺産。相続税を減らすには、いかに課税対象となる遺産額を圧縮できるかが重要になるが、一軒あたりの金額が大きい不動産の場合は工夫が必要だ。

 相続税には「小規模宅地等の特例」という、不動産の評価額を落とせるルールがある。自宅なら330平方メートル(約100坪)までは8割引きで相続できるお得な制度だ。

 都内の高級住宅地として知られる目黒区に住む田辺春代さん(仮名・52才)のケースで見ていく。2人きょうだいの長女である田辺さんとその夫は、父母が亡くなるまで、10年以上にわたって同居して介護してきた。

 相続する際、路線価は1坪約200万円とされ、自宅は50坪あったので、評価額は1億円。亡くなった親と同居していた長女の田辺さんが相続すると、「小規模宅地等の特例」が適用され、評価額は8割引きの2000万円まで下がり、相続税はゼロですんだ。『トラブル事例で学ぶ失敗しない相続対策』著者で相続コンサルタントの吉澤諭さんが話す。

「田辺さんの場合はうまくいきましたが、この特例を適用するには、いくつかの条件があります。被相続人の死後10か月以内に遺産分割協議を成立させ、相続税の申告書を期限内に出し、税務署に不備がないと認められなければなりません。もし、田辺さんの弟が“もともと1億円なんだったら、おれに半分の5000万円をくれ”などと言い出していたら、揉めてこの特例どころではなくなっていたかもしれません」

 最悪の場合、分割協議が成立せず、1億円の自宅は亡くなった母の名義のままだったかもしれない。田辺さんの弟は、「姉さん夫婦はずっと母さんの面倒を見てくれたんだから」と、喜んで遺産分割協議書に判を押したのだという。吉澤さんは、相続において最も大切なのはコミュニケーションだと話す。

「これまでに何件も相続トラブルを見てきましたが、お金の問題は解決しても、仲の悪いきょうだいが仲よくなったことは一度もない。普段から仲よくしていることが円満な相続につながるのです」

 とはいえ、自分も親も年を取ってからの相続は、いわば“まとまったお金が入るラストチャンス”のようにも思えてしまう。田辺さんの弟のように、笑顔で判を押せない人は少なくないはずだ。

※女性セブン2021年3月11日号号