海外を舞台にした宮崎監督作品は、ファンタジーというよりSF的な作品が多いように感じられる。成長過程で見た風景でないにも関わらず、そこで描かれる世界はなぜか懐かしい。なぜ心を揺さぶられるのか? 代表作の舞台やそのモチーフと考えられている場所を探りながら考えてみよう。

『魔女の宅急便』コリコのモデルは公式発表されたあの町

 『魔女の宅急便』(1989)は、13歳の満月の夜、魔女の風習を守って修行の旅に出た少女キキの成長譚。黒い服に着替え、ほうきにまたがり、自分ひとりで生きる地を空から探すキキ。彼女の高揚感と心細さが、「ルージュの伝言」とともにひしひしと伝わるプロローグだ。

 キキが住む町コリコを描く際の参考として、スタジオジブリが公式に発表しているのが、スウェーデンの「ゴトランド島ヴィスビー」と「ストックホルム」。特に宮崎監督が好きだと言う路地裏は、ストックホルムのガムラスタンという町をそのまま描いたと美術担当の大野広司さんが明かしている。

ストックホルム、ガムラスタンの裏通り(Norichika/stock.adobe.com)

 ゴトランド島ヴィスビーは、バルト海に浮かぶ要塞だった島。町のいたるところに薔薇の生け垣があり、薔薇の都とも呼ばれている世界遺産の島だ。映画の中では、海際まで建物が並ぶお椀を伏せたような島として描かれるが、実際、海岸と町の中心部ではかなりの高低差がありそうだ。ヴィスビーことコリコこそ、荷物を届けるサービスが切望されていた場所なのではないだろうか?

ゴトランド島ヴィスビー(Charlotte/stock.adobe.com)

 おしゃれをして町を歩く同年代の女の子たちに対し、地味な黒いワンピース姿のキキが引け目を感じるシーンがある。黒い服はむしろキキを映えて見せていると言われ、気を取り直す。実は宮崎監督、そんなキキにお守りを与えていた。そのお守りとは、大きな赤いリボンと黒猫のジジ。泣きたくなるほどうまくいかないことを何度も経験し、成長していく13歳の少女に、何かプレゼントを贈りたかったのだろう。ここから約10年後に宮崎監督は、さらに年少な10歳の少女が働くことで自分の居場所を得る物語『千と千尋の神隠し』(2001)を作るのだが。

『紅の豚』ジブリ作品の舞台では断トツのリゾート度

 世界恐慌時代のアドリア海を舞台に、賞金稼ぎとして生きる、第一次大戦を戦ったイタリア空軍の退役軍人で一匹狼(豚)の飛行艇乗りポルコ・ロッソを描く『紅の豚』(1992)。武器屋のおやじが言う、「戦争で稼ぐ奴は悪党だ。賞金稼ぎで稼げない奴は能無しだ」が、ポルコの生きる時代であり、生き方だった。

 ポルコ・ロッソは、ハードボイルドな男。見た目は豚だが、『カサブランカ』(1942)でハンフリー・ボガートが演じたリックみたいな男だ。顔ははっきり映らないが、戦前の写真とある夜の横顔が、実は人間であることを示す。どうやら自身で豚になる魔法をかけたらしい。そして「飛ばねえ豚は、ただの豚だ」と自身に発破をかける。

 そんなポルコ・ロッソが住んでいるのは、愛機「サボイアS.21F」を隠し、自らも寝起きできる、アドリア海にぽっかり浮かぶ島。島は外輪だけ残し、天井部分がなく、そこから太陽光が青い海と白い砂浜にあたるようになっている。それゆえ、飛行艇乗りなら難なく発見し、侵入できてしまうのはご愛敬。そんなアジトに似ているのが、ギリシャの「ザキントス島」。スタジオジブリの全作品中、最もリゾートに近く、住んでみたいと思わせる楽園だ。

ギリシャのザキントス島(w.aoki/PIXTA)