人気漫画家、咲坂伊緒の同名コミックが原作のアニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』(公開中)で、新人声優の鈴木毬花がダブルヒロインの一人である由奈役に抜てきとなった。オーディションでは満場一致で役を勝ち取った鈴木だが、プレッシャーも大きなものだったという。原作者の咲坂が「まだ形作られていない、ピュアな感じが本当に“由奈”という感じだった」とハマり具合いを絶賛すると、「ものすごく不安だったので、とてもうれしいです!」と胸を撫で下ろした鈴木。実は幼いころから咲坂作品の大ファンだそうで、これには咲坂も「そういう方といまこうして一緒にお仕事ができているなんて。私もとてもうれしい」と大喜び。笑顔いっぱいとなった2人のインタビューをお届け!

咲坂の青春三部作「ストロボ・エッジ」「アオハライド」に続く最終章をアニメ映画化した本作。恋愛に対して現実的な朱里(潘めぐみ)、夢見がちで恋愛に消極的な由奈(鈴木)、朱里の義理の弟であり葛藤を抱える理央(島崎信長)、率直でどこかつかみどころない和臣(斉藤壮馬)。等身大の主人公たちが繰り広げる恋模様と、彼らが自分自身や他者と向き合いながら成長していく姿をみずみずしく描く。

■「鈴木さんに由奈を演じていただけて、とてもうれしかった」(咲坂)

ーーオーディションで由奈役に抜てきされました。鈴木さんにとって劇場アニメは初出演となりますが、由奈役に決まった時の感想を教えてください。

鈴木「もちろんすごくうれしかったのですが、正直、不安の方が大きかったです。私は自分に自信がないタイプで、『私で大丈夫かな…』と思ってしまったのですが、自信がないからこそ、より大きなプレッシャーを感じてしまうんだと思いました。だからこそ、たくさん由奈を自分のなかに取り入れられるように、絵コンテや原作を読み込んで、少しでも自信がつけられるようにしたいと思っていました」

咲坂「鈴木さんの由奈、ものすごく素敵でしたよ。『満場一致で決まった』と伺っていたのですが、初めて鈴木さんの声を聞いた時に『そりゃ、そうだよな』と思いました。この方に由奈をやっていただけると思うと、すごくうれしかったです。まだ形づいていないピュアなニュアンスが、ものすごく“由奈”という感じがしました」

鈴木「ものすごく不安だったので、とてもうれしいです!」

ーー由奈に共感できた部分はありますか?

鈴木「原作を読んでいる時から、『由奈の気持ちがわかるな』と思うことが多かったです。実際に演じてみても、同じように思いました。例えば、由奈が『私なんかが告白しても…』と悩む場面があるのですが、自分も『私なんか…』と思ってしまうことがあって(苦笑)。でも由奈役に受かって、こうして演じることができたことで、少し自信になったところがあります。演じる時には、最初は緊張のあまり声が上ずってしまったのですが、だんだんと落ち着いてきて、私も由奈と一緒に成長できたのかなと思っています」

ーーこうしてお話を聞いていても、由奈にぴったりだなと感じます。

咲坂「誰もがきっと、なにかにチャレンジする時には『私なんか…』と思ってしまうことってありますよね。由奈だけではなく、それはいろいろな人に通じるものだと思いますが、その部分が特に鈴木さんの心境にハマっていたんじゃないでしょうか。ますます皆さんに鈴木さんの演じた由奈を見てほしい!と思いました。由奈のモデルは特にいませんが、朱里と由奈の2人を対等にしたいと思って生みだしたキャラクターです。私のなかにも朱里と由奈、両方の価値観が存在しています」

■「潘さん、島崎さん、斉藤さんは人としても尊敬できる方」(鈴木)

ーー由奈は、対照的な性格の朱里と出会ったことで刺激を受けていきます。鈴木さんも、朱里役の潘さんから刺激を受けることはありましたか。

鈴木「潘さんは、収録が始まる日や取材がある日などには『今日はよろしくね』とLINEをくださるんです。そのひと言で『頑張ろう』『潘さんがいるから安心できる』と思うこともできて、とても支えていただきました。潘さん、島崎さん、斉藤さんがお芝居をしているのを後ろから見ている時間もあったのですが、あまりのすばらしさに圧倒されました。そういう姿を見ても気合が入りましたし、皆さん本当に優しくて、人間的にも尊敬できる方でした。声優としても『こういう人になりたい』と感じていました」

咲坂「ブースの外で見学をさせていただいたのですが、潘さんが『この場をリラックスした雰囲気にしよう』と空気作りをされているのが、遠目にも伝わってきて。『なんて頼りになる先輩なんだろう!』と思っていました。これは新人の声優さんは惚れるだろうなと(笑)。気遣いもさりげなくて、本当に素敵。場がピリつかないようにされていて、朱里役にもぴったりでしたね。また潘さんだけでなく、島崎さん、斉藤さんも、おそらく自分たちが通ってきた道だからこそ、『鈴木さんを緊張させてはいけない』と思っていたのではないでしょうか。アフレコ現場からは、そういった温かさを感じました」

鈴木「本当に温かな現場でした!ものすごく感謝しています」

■「一ノ瀬蓮くんは、私にとって永遠の憧れ」(鈴木)

ーー鈴木さんは、もともと咲坂作品のファンだったそうです。

鈴木「小学生のころに初めて『ストロボ・エッジ』を買って。そこから咲坂先生の大ファンだったんです。それだけに先生の作品に出演できるなんて、本当にうれしくて…」

咲坂「ずっと読んでくださっていた方と一緒にお仕事ができるなんて、私もすごくうれしいです!」

鈴木「少女漫画が好きでたくさん読んでいるのですが、咲坂先生の作品は少女漫画であっても、現実味があって、登場人物それぞれの心情がとても繊細に描かれている。だからこそ読んでいるこちらも共感できるし、小学生のころは『こういう恋をしてみたいな』『こういうのが恋というものなんだ』と憧れたりしていました。また大人になって読んでみると、『高校生のころにこういう気持ちがあったな』『こういうイベント楽しかったな』と自分の思い出と重ね合わせることもできる。私の母も先生のファンで、『思い、思われ、ふり、ふられ』は母が最初に買い始めたんです(笑)」

咲坂「そんなふうに言っていただけて、すごくうれしいです!私が漫画を描く時に心がけているのは、『あまり嘘は描きたくない』ということ。でも難しいのは、同時に『本当ばかりを描かない』ということも両立させなければいけないことなんです。そこはいつも難しいなと思っているので、鈴木さんに『現実味があるし、憧れる』と言っていただけてとてもうれしいです。私は人から恋愛話を聞くのも大好きで、話を聞いた時に『うわ、キュンと来た!』と思うことが大事なような気がしていて。もちろんエピソードをそのまま描くわけではないですが、その“キュン”を作品に込めるようにしています。また学生時代に経験したことや、当時の“キャッキャ感”も忘れていないので、いまでも“キャッキャ”しながら描いています(笑)」

鈴木「いまこうやって咲坂先生とお話をしているなんて、小学生のころの自分に言ったら、びっくりすると思います。私は、当時から『ストロボ・エッジ』の一ノ瀬蓮くんが大好きで。多分、私が初めて好きになったキャラクターだと思います。あまり口数は多くはないけれど、話してみるとすごく優しい…。いまもし『好きな男性のタイプは?』と聞かれても、そういう人だと答えると思うので、それって一ノ瀬蓮くんから来ているんじゃないかな?と。蓮くんは、私にとって永遠の憧れです!」

■「漫画というのは、すごく奥深い世界」(咲坂)

ーー本作では、登場人物たちの姿を通して“一歩踏みだすことの大切さ”も描かれます。お二人にとって、「この時、一歩踏みだして良かった」と思うご経験を教えてください。

鈴木「事務所のオーディションに応募したことです。私自身、アニメから元気をもらうことがあって、私も誰かを元気にできる作品に関われたらいいなと思い、声優を目指すようになりました。事務所のオーディションには、親にも内緒で応募して…。合格の報せをもらってから『よし、ちゃんと言おう』と決心がついて、いまこうしてお仕事をさせていただいています。その一歩には勇気も必要でしたが、そこで勇気を出したことで、本作では尊敬できる先輩と共演させていただくこともできました。私もこれからいろいろな作品、キャラクターに出会っていけるように頑張っていきたいです」

咲坂「私は会社員を辞めて漫画家になったのですが、その選択をして良かったなと思っています。毎朝、同じ時間に起きる辛さから解放されたのは、本当に大きいですね(笑)。だからこそ自分を解放させて、物語を描けているのかもしれません。売れない時代もありましたし、『こんなはずじゃなかった!』と思うこともありましたが、そんな時でも『どうにかなるだろう』と思える自分がいて。とにかく『やりたい』と思えるものに出会えて幸運だなと感じています。漫画というのは、すごく奥深い世界。永遠に追求することができる世界だなと思っています」

※島崎の「崎」はたつさきが正式表記

取材・文/成田おり枝