謎の武装集団によって領土が占領されるという事態に遭遇した日本を舞台に、現場へ向かう航空機搭載型護衛艦「いぶき」のクルーたちの戦いと、それぞれの持つ信念のぶつかり合いを、西島秀俊、佐々木蔵之介ら豪華キャストで映画化した『空母いぶき』(19)。

本日12月5日に『空母いぶき』Blu-ray&DVDが発売されたことを記念して、現役東大院生でもあるお笑い芸人、XXCLUBの大島育宙が徹底解説。年間100本以上の映画を観る映画通で、独自の切り口で新作映画のおもしろさをレクチャーするYouTubeチャンネル「コンテンツ全部見東大生」でも注目を集めている彼は、果たして『空母いぶき』をどう観たのか。

――『空母いぶき』を観た率直な感想を教えてください。

「近未来の話と言いながら完全に現代の話だったし、『エンド・オブ・ホワイトハウス』などの、政治の現場で起こる事件を描いたパニックアクション映画を日本が本気で作ったらこうなるのかな?という感触が味わえておもしろかったです。そこに憲法などリアルな問題が乗っかっているというふうに考えたら、誰もが観やすいんじゃないですかね」

――描写やディテールでリアルだなと思われたところは?

「ここで攻撃をするのか、しないのか?と逡巡する物語を、日本映画が昔の戦争ではなく、いまの話として描いたのは歴史上初めてのことだと思うし、それが大作でできちゃうんだというところに驚きました」

――それを最も象徴しているのが、平和のためには武力の行使も辞さないといういぶきの艦長、秋津竜太(西島秀俊)と、防衛に徹することを主張する副長の新波歳也(佐々木蔵之介)の信念のぶつかり合いです。

「あの2人が物語の核ですよね。彼らはどちらも自分の思想に基づく理想論をぶつけあっているから、どっちが完全に正しいとは言い切れない。どちらもある意味極論なので、現実的じゃない。それこそ、西島さんという俳優自体は好きだけど、秋津艦長の言ってることヘンじゃない?と思ったり、佐々木さんのファンだけど、この状況で新波副長が下す判断は本当にあってる?と考える人もいるだろうなと。そういう俳優自身のキャラクターと、演じている役の人格や主張を、切り離して作品を観る最初の練習になるかもしれない。でも、自分だったらどうするだろう?と考えた時にゾワっとしました」

――秋津の考えは間違っていると最初は思うけれど、あの状況なら仕方がないかもしれないし。

「そう、ちょっと過激じゃない?って気がするけれど、リーダーシップをとる人は倫理や道徳を1個外さないといけないのかもしれない。でも西島さんが演じることで、ズッシリ重い主義主張を持った、原作の秋津より尖った人物になったのはすごいと思いました」

――佐藤浩市さんが演じられた総理大臣についてはどう思いました?

「『シン・ゴジラ』に登場する総理とけっこう同じ造形で、“弱い”ですよね。佐藤さんはいい意味でオーラを消していて、リアルでしたけど、フィクションの世界では弱い指導者が求められているのが少し皮肉というか、正義感の強い1人の人物を主人公にした作劇がもう時代に合ってないんでしょうね。そう考えると、総理はもっと弱くてもよかったかも。そのほうが、周りの人たちが強くなりますから」

――本田翼が演じた、いぶきに乗船するネットニュースの新人記者、本多裕子や、中井貴一が扮したコンビニの店長の描き方についてはどんな印象を持ちましたか?

「“和らげ担当”の人たちはみんな、物語に緩急をつけてくれる存在になっていていいですよね。この人たちには思想やスタンスは特にありませんという描き方をしているし、そういうシーンが多いから、誰でも気軽に観ることができる。個人的には、コンビニのバイト役の深川麻衣さんがモテないキャラを演じていたのが新鮮だったし、『新聞記者』では完全に蚊帳の外だった本田さんが渦中にいるのがおもしろかったです(笑)」

――逆に、何人かの人物が殉職するシリアスなシーンもありました。

「あそこは、こんな急展開があるんだ!ってびっくりするし、物語に影を残しますよね。そういう意味では、この映画にはいろいろな要素が詰め込まれていると思います。殉職シーンもわざわざ入れているし、能天気なクリスマスのシーンを無自覚に入れているはずがない。中井貴一さんの店長のキャラも、若い人たちに社会のことを教えなければいけない“大人”という立場の人が一番なにも知らないという、現実のコミュニティのメタファーともとれる。それこそ、リテラシーが低い、感受性があまりない人はこの映画のラストを見て、ハッピーエンドって思っちゃうかもしれないけれど、つくり手の意識はたぶんそうじゃない。観る人を踏み絵的に分ける、鑑賞者の解像度が問われる鋭い仕掛けになっているんじゃないかなと。だから、観たあとに皆で話せたらいいですよね。世代や住んでいる地域によっても感想は異なると思いますし、『空母いぶき』は皆で語るところまでを含めたエンタテインメントだと思います」

――ところで、「コンテンツ全部見東大生」で紹介する作品はどんな風に選んでいるんですか?

「チャンネルを初めて間もなく、とりあえず動画をクリックしてもらわないといけないので、ヒットしている作品ですね。ただ、公開初日に観に行って、このことについてはまだ誰も話していないなという感想が浮かんだら動画にしますが、独自の感想を思いつかなかったら動画にはしません。そこは、一番大事にしているところです」

――YouTubeでは、どういう人たちにメッセージを届けたいと思っていますか。

「映画の感想を話せる人が周りにいない人が、話し相手のような感覚で見てくれると嬉しいですね。僕も自分が観た映画の感想を喋る人が周りにいなくて、それでYouTubeを始めましたから。例えば『ジョーカー』を観たときに、(主人公の)アーサーはめっちゃ自業自得じゃん!と思ったんですけど、そのことを細分化して語っている人があまりいなかったので、だったら動画にしようと思いました。そういう考え方ですね。順番としては」

――大島さんご自身はどういう映画がお好きなんですか。

「情報量が多くて、時系列を凝縮している映画がやっぱり好きですね。なので、『フォレスト・ガンプ 一期一会』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のような、1人の人間の人生を描くような作品にハマることが多いです。『空母いぶき』は、それらの作品とはタイプは違いますが、いろいろなトピックが入っていたから、その点でも楽しかったです」

――日本映画でお好きな作品は?

「僕、『藁の楯 わらのたて』がめちゃくちゃ好きです。大沢たかおさんが演じられた警視庁のSPが、遵法精神を貫く勇者みたいなキャラクターで、それを邪魔するモンスター級の殺人犯を藤原竜也さんが演じてます。しかも、その殺人犯がどんどん強くなっていくゲームみたいな話なんです。最後は自分自身の愛がラスボスになっていて、自分の遵法精神と激突する展開なんです。リアリティは全然ないし、藤原竜也さん演じる凶悪犯があんな風に野放しになるわけないだろう? とか、ツッコミを入れようと思えば幾らでもツッコミを入れられるんですけど、テーマを浮き彫りにさせるためにリアリティはある程度下げて、さあ、みんなで考えよう!というスタンスをとっているあたりは『空母いぶき』にとても似ています。ツッコミを入れずに楽しもう。そう思って1度乗っかっちゃえば、めちゃくちゃおもしろい。僕の好きな映画では、そこが一番『空母いぶき』に似ているような気がしますね」(Movie Walker・取材・文/イソガイマサト)