世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスは、日本やアジア各国よりも遅れて北米にパンデミックをもたらしている。SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)やコーチェラ・フェスティバルといった音楽・映画イベントが中止や延期を余儀なくされ、映画館が閉鎖され、大作映画の公開延期も相次いでいる。NYやLAでも非常事態宣言が発令され、大人数で集まる行為は禁止、レストラン・カフェなどはテイクアウトのみ、そしてサンフランシスコでは今後2週間不要不急の外出禁止令が出された。食料や生活必需品の買い占めが始まり、仕事も学校も通えない。しかし、この困難な局面に瀕しているのは一般市民だけではない。ここ数日は、ライブやフェスが中止・延期になり、同じように自宅待機しているミュージシャンたちが、SNSを使って自宅からライブ配信するイベントが増えている。コールドプレイのクリス・マーティンは、自宅からピアノとギターの弾き語りライブを実施。インスタグラムのアカウントで配信されたライブの最中に世界各地からコメントが届き、リクエストに応える。約30分間、自身のヒット曲やデヴィッド・ボウイの『Life on Mars?』などを演奏した。

同じように、ジョン・レジェンドもTwitter経由でライブ配信を告知し、インスタグラムでライブ配信を行なっている。

これはソーシャルアクション・プラットフォームの「Global Citizen」とWHOが主導する「Together, At Home」という音楽シリーズの一環で、コロナウイルス感染予防のために自宅待機となっている世界中の人々が孤独を感じないように、ソーシャルで繋がろうというもの。

一方、ブロードウェイ・ミュージカル「ハミルトン」や『メリー・ポピンズ リターンズ』(18)のリン=マニュエル・ミランダは自宅から「ハミルトン」の楽曲を演奏した。

シンガーのリゾもインスタグラムのライブ配信で、「メディテーションとマントラでこの世界的危機を癒します」と30分間演奏と言葉によるメディテーションを続けた。

チェリストのヨー・ヨー・マも、「Songs of Comfort」として、ドヴォルザークの「家路」やバッハの無伴奏チェロ組曲第三番を演奏。バッハの楽曲は医療従事者たちに捧げられている。

ここに挙げたミュージシャンだけでなく、ライアン・レイノルズとブレイク・ライブリー夫妻は約1億円をアメリカとカナダのフードバンク(食料配布団体)に寄付。そして、オーストラリアで映画撮影中だったトム・ハンクスと妻のリタ・ウィルソンは新型コロナウイルスの陽性反応をインスタグラムでポストした。

そして『マイティ・ソー』(11)のヘイムダル役で知られるイドリス・エルバもコロナウイルス感染を報告。ツイッターの配信で、「黒人はコロナにかからないなんていうナンセンスな陰謀論は忘れろ。これはとても危険でやばいやつだ。黒人だけじゃなくて誰でも感染するんだ」と、コロナウイルスにまつわる情報を共有した。自覚症状がないまま陽性反応が出たエルバは、「なぜ症状がないのにテストを受けたのかという質問を受けたが、先週の金曜日に接触のあった人に陽性反応が出たと聞いて、映画の撮影現場という人が密集する場所で働いている自分はテストする必要があると感じた」と述べている。また、自身は喘息持ちでハイリスクに分類されるが、現時点では熱もなく平常だという。「このウイルスは分け隔てなく誰でも感染する。だから事実を知って予防に役立ててほしい」と真摯に語りかけるビデオは、現時点で23万人以上の人が視聴している。

この状況下で、彼らが陽性を公表したことは大きな意味を持つ。コロナウイルスは誰でも感染する危険なウイルスであること、そして何より、トム・ハンクスやイドリス・エルバでさえ感染者の一人であることを世界中に伝えた。自宅待機でウイルスの脅威や物質不足に不安な日々を過ごす人々、そして感染してしまい隔離されている人々に「君だけじゃない」と伝えることが、どれだけ心の平穏をもたらすことか。世界中がいままで経験したことがない脅威と不安に震えるなか、アーティストたちは彼らが持つ最大の才能である“人を喜ばせる”ことで世界と繋がろうとしている。(Movie Walker・文/平井伊都子)