世界に羽ばたく新たな才能を顕彰する目的で、一般社団法人PFFが今年新たに創設した「大島渚賞」の上映会が20日、東京・丸ビルホールにて開催。記念すべき第1回の受賞者に選ばれた小田香監督の最新作『セノーテ』(6月公開)の上映後のトークショーに、小田監督と審査員長の坂本龍一、同じく審査員を務めた黒沢清が登壇した。

『戦場のメリークリスマス』(83)をはじめ、国内外で高い評価を獲得した大島渚監督の名前が冠された「大島渚賞」は、1977年から40年以上にわたり多くの映画人を輩出してきた「ぴあフィルムフェスティバル」を主催するPFFが、映画の新しい才能を発見する「PFFアワード」と、その才能を育成する「PFFスカラシップ」につづく新たなステップとして創設した賞。

受賞者の小田監督は、『サタンタンゴ』(94)などで知られるハンガリーの巨匠タル・ベーラ監督による若手映画作家育成プログラム「film.factory」に第1期生として参加した経歴の持ち主で、ボスニアの炭鉱を映した第1回長編作品『鉱 ARAGANE』(15)が日本で劇場公開。この日上映された最新作『セノーテ』は、メキシコに点在する洞窟内の泉“セノーテ”をめぐるマヤ文明の歴史と記憶を映しだした意欲作となっている。

トークショーでは小田監督に坂本がインタビューをするような形で『セノーテ』について質問していく。「マヤの歴史に興味を持ったのは?」と訊かれた小田監督は「神話とかは昔から好きだったのですが、『セノーテ』のはじまりはサラエボで一緒に勉強していたメキシコ人の友人。彼女に次なにを撮りたいか訊かれ、『水を撮りたい』と言ったらセノーテについて紹介してくれた。そこから調べていって、マヤの人たちにたどり着いたんです」と振り返る。

前作『鉱 ARAGANE』でも地中深くの炭鉱を被写体に選んだ小田監督に対し、坂本は「潜りたいの?」と興味津々の様子。「意識的に普段から地下に行くとかではないのですが、結果的にいままでそうなってきています」と照れ笑いを浮かべながら答える小田監督に、坂本はさらに「空には向かっていかないの?」と質問。小田監督は「お金次第ですが、宇宙を撮りたいです」と意欲をのぞかせていた。

一方で「すごい映画だと思いました。死のイメージと生きている感じが画面と音で、ある種の恐怖と共に表現されているのが驚きました」と賛辞が贈る黒沢は、本作を“ドキュメンタリー”というジャンルにカテゴライズしていいのかや、劇映画ではない作品ではどのように撮影を終わらせる判断をするのか、またフィルムを用いて撮影されたシーンについてなど、同じ映画作家として小田監督と『セノーテ』に興味を持った点について次々と質問していった。

そんななか、話題は賞の名前となっている大島渚監督の作品について移ることに。受賞が決まってから大島監督の作品をほぼすべて観直したという小田監督は、坂本と黒沢に質問したいと希望し「賞をいただく前まではテレビにでてる時のイメージが強かったのですが、今回観直してみて、日本の戦中戦後の大きな問題に対しての怒りもありながら、国民ひとりひとりに返ってくるような作品だと思いました」と大島監督作品の印象を語ると、坂本に「『戦場のメリークリスマス』の音楽は、どのようなコミュニケーションで生まれたのですか?」と質問する。

すると坂本は「その前に、大島監督の作品を全部観ていくと『戦メリ』だけ浮いて見えない?(笑)」とつぶやき、「『戦メリ』は僕に取って初めての映画音楽。最初大島さんは僕に出演してくれとオフィスに来てくださって、『喜んで』と言うつもりだったのが、『音楽は僕にやらせてください!』と言ってしまったんです(笑)」と経緯を振り返る。

さらに「どうやって映画音楽を付けるのかまったくわからないまま撮影が始まって、南の島で気候も良くて環境も良くて」と語る坂本は「音楽がふとした瞬間に頭に流れてくるとか、撮影風景を横目で見てインスピレーションが湧くかといったら、まったくなかった(笑)。映画の撮影も初めてだったから、それを楽しんでいましたね」と自嘲気味に当時を回想。そして「東京に帰ってからゼロから始めて、大島監督からは『こういう方向で』とかもなく好きにやってくれと言われた。なので完成した作品には100%僕が作ったものが全部使われてる」と明かす。

坂本は同作の後も、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラスト・エンぺラー』(88)でアカデミー賞作曲賞など多数の映画賞を受賞するなど数多くの映画音楽を手掛けてきた。「少し前の『レヴェナント』の時にはラフカットが毎週送られてきて、その度に直さなきゃいけなくて時間もなくてあっぷあっぷになっていた」と明かし、『戦メリ』の時のようにすべて自由に作曲できたことは「見事と言っていいほどにない。完全にビギナーズラックだった!」と苦笑い。会場の笑いを誘っていた。(Movie Walker・取材・文/久保田 和馬)