いじめや非正規雇用など自らの経験をテーマに短歌を発表し続け、32歳で命を絶った“非正規歌人”萩原慎一郎の歌集「滑走路」が水川あさみ、浅香航大、寄川歌太の出演で映画化されることが決定、2020年秋に公開される。

萩原の初の歌集にして遺作となった「滑走路」。苦難のなかで生きる希望を歌った295首は、苦悩を抱える人へのエールとして多くの共感を呼び、自費出版がメインの歌集において累計8刷30500部という異例のヒットを記録している。

このたびの映画化では、萩原の歌集から着想を得てオリジナルストーリーとして脚本化。1月期の連続ドラマ「やめるときも、すこやかなるときも」や劇場アニメ『ジョゼと虎と魚たち 』(2020年夏公開)の公開も控える桑村さや香が脚本を手掛け、『シン・ゴジラ』(16)や『マチネの終わりに』(19)など数多くの作品で助監督として活躍する大庭功睦がメガホンをとる。主演を務めるのは、今年『喜劇愛妻物語』の公開も控える水川あさみ。30代後半に差し掛かり、将来への不安を抱える切り絵作家の翠役を演じる。また、非正規雇用者の自殺問題に向き合いつつ、自らも過重労働に苛まれる厚生労働省の若手官僚の鷹野役を浅香航大、幼馴染をかばったことでいじめの標的にされてしまう中学二年生の学級委員長役を寄川歌太が演じる。

すでに撮影は終了し、現在編集作業中の本作だが、大庭監督は「桑村さんとの脚本作り、また撮影の現場において常に心がけていたのは、萩原さんの『繊細な感受性、優しい眼差し』を失わないことです」と回顧。さらに映画化に際して、原作者の萩原慎一郎の両親は「慎一郎が空を飛ぶための翼になると願った三十一文字が、皆さまの心に届きますように祈っております」とコメントを寄せている。現代社会で苦悩を抱えながらも、懸命にもがき生きる人々の背中を押す人生賛歌の映画化に期待したい。

<キャスト、萩原慎一郎(原作者)ご家族、監督コメント全文>

●水川あさみ(翠役)

「萩原さんの短歌は読む人の心にそっと寄り添いながらも包み込み、心に響くエールをくれるなと思いました。映画では、それぞれの人生が交差し行き交いながら葛藤し決断し立ち止まり、前に進む姿は誰しもの背中を押してくれる作品になったのではないかと思っています。沢山の現場を助監督としても経験されてきた大庭監督ならではの細やかな視点や発想力は、一緒にいて刺激的かつ面白い経験をさせてもらい感謝しています。原作同様に、観ていただいた人の心に寄り添う作品になっていれば嬉しいなと願っています」

●浅香航大(鷹野役)

「多くの人がなにかと生きづらさをどこかで覚えるこの時代に、ささやかな希望を見出せる、止まり木の様な作品だと思いました。僕が演じた鷹野は、厚生労働省に勤める若手エリート官僚で、官僚の仕事は、想像を超える仕事量と情報量、責任感などに圧倒されましたが、鷹野の苦悩や葛藤を演じるうえで重要なピースとなりました。撮影に入る前の打ち合わせから印象的に感じた大庭監督の熱量の高さと、キャスト・スタッフ共に高い緊張感のなか撮影を終えた今、仕上がりをとても楽しみにしています」

●寄川歌太(学級委員長役)

「大切なものを守ること、それを貫くことで自分が辛い状況になっていく。そこから逃れたいけれど、人を傷つけたくない。前を向いて歩いていくんだ。この一つ一つの思いを大切に演じ、そして僕自身葛藤もしました。その葛藤に大庭監督はいつも気づき寄り添って、僕の思いを丁寧に聞き出してくださいました。全ての撮影を終え、役から自分自身に戻った瞬間、涙が止まりませんでした。沢山の方に支えていただき、僕にとって大きな一歩となりました。是非観て感じていただきたいです」

●萩原慎一郎(原作者)ご両親

「息子萩原慎一郎が苦難を乗り越え希望へと編んだ第一歌集『滑走路』をイメージした映画化に心から感謝します。慎一郎が空を飛ぶための翼になると願った三十一文字が、皆さまの心に届きますように祈っております」

●萩原健也(原作者・弟)

「歌集『滑走路』は、いかなる逆境にも立ち向かい、努力を惜しまなかった1人の歌人が作り上げた作品です。兄は文学史に名を刻んでゆくと僕は確信しています。映画となる今こそ、萩原慎一郎の真骨頂を見せる時です」

●大庭功睦監督

「『非正規雇用の歌人が遺した歌集』という触れ込みをもって読んだ歌集『滑走路』でしたが、そういった触れ込みには到底収まりきらない豊かな感情の機微が感じられ、それらの歌を綴った原作者・萩原さんの繊細な感受性、優しい眼差しに思いを馳せました。考案した企画の端緒となったのは、webに数多く書かれていた、原作読者の方々の書評でした。萩原さんの歌を、まるで自分自身の事が歌われたかのように感受した読者の方々が、自らを投影しつつ気持ちのこもったレビューを多数書かれているのを目にし、その深い交流に感銘を受け、『この読者の方々を登場人物に据えた群像として、ストーリーを紡げないか』と考えたのです。桑村さんとの脚本作り、また、撮影の現場において常に心がけていたのは、萩原さんの『繊細な感受性、優しい眼差し』を失わないことです。それらが読者の方々の共感を呼び起こした大元にあるのなら、オリジナルストーリーとして作られる映画も、その感受性、眼差しに寄り添いながら作られていく必要があります。何よりも、原作者の萩原さんと、そのご家族、そして、原作歌集を愛する読者の方々を失望させてしまうような映画にだけは絶対にしてはならないと考えていました。その思いを心強いスタッフ、キャストらと共有して映画作りに臨みました。皆さまに映画としてしっかりとお返し出来るような作品になればと思っております」(Movie Walker・文/富塚 沙羅)