昨年5月12日に95歳で亡くなった女優・京マチ子。大映のトップ女優として第一線で活躍し続け、いくつもの国際映画祭で出演作が大きな賞を獲得したことから“グランプリ女優”の名をほしいままにしてきた彼女は、その圧倒的な存在感を放つ美貌と長身を生かした演技で黒澤明や溝口健二、小津安二郎ら、いまなお世界的人気を誇る巨匠監督たちに起用された輝かしいキャリアを持つ。そんな彼女がその3監督とタッグを組んだ名作映画3本が、「京マチ子傑作選」としてBlu-ray BOXで発売中だ。

「京マチ子傑作選」には、黒澤明監督の『羅生門』(50)のデジタル完全版、溝口健二監督の『赤線地帯』(56)と、小津安二郎監督の『浮草』(59)の4Kデジタル修復版の3作品を収録。数々の名シーンが美しい映像で鮮やかに甦っている。

なかでも注目したいのが『羅生門』だ。京が“グランプリ女優”と呼ばれたことは先述の通りだが、その最初の受賞となったのが本作で、日本映画としても初めてとなるヴェネチア国際映画祭の金獅子賞に輝いた。以後も溝口の『雨月物語』(53)を同映画祭銀獅子賞に、衣笠貞之助監督の『地獄門』(53)をカンヌ国際映画祭のグランプリに導く道筋をつくった作品といっても過言ではないだろう。撮影の宮川一夫による(当時はタブーとされていた太陽に直接カメラを向けるなどの)画期的な撮影手法がモノクロ映像の美しさを極限まで引き出し、映画音楽を多数手掛ける名匠・早坂文雄が担当したボレロ調の音楽も大きな話題となった。

芥川龍之介の短編小説「藪の中」と「羅生門」を原作に、黒澤と橋本忍が脚色を担当した『羅生門』。平安時代のとある藪の中で、盗賊・多襄丸(三船敏郎)と侍夫婦が出くわしたことで事件が発生。現場には夫の死体が残された。この事件を巡り、目撃者二人と捕らえられた多襄丸、侍の妻(京)、さらには巫女により死んだ侍(森雅之)の霊を呼び寄せるが、それぞれの事件の証言には矛盾が生じ、真相はわからず途方に暮れてしまう…という物語だ。この関係者によって証言が大きく食い違っていくというシチュエーションは、映画やドラマでたびたびオマージュされるなど、後世に大きな影響を与えている。

『赤線地帯』は女性映画の巨匠と呼ばれた溝口の遺作であり、『浮草』は松竹所属の小津が大映で撮りながらも、笠智衆、杉村春子というおなじみの俳優を連れて大映スターの京、若尾文子らとの豪華共演が叶うなど、どちらも観逃せない作品だ。一周忌を迎えた京マチ子の名作にお家で触れ、有意義な時間を過ごしてみてはいかがだろうか?(Movie Walker・文/トライワークス)