鼓と笛からなる日本の伝統音楽「お囃子(はやし)」は、新型コロナウイルスの影響で発表会や演奏会が開催しにくい状況が続いています。こうした中、感染対策を徹底した上でお囃子の演奏会が東京都内で開催されました。緊急事態宣言下でも開催にこだわった、伝統を守り抜くための家元の思いに迫りました。

 小鼓と大鼓、太鼓、笛からなるお囃子は、歌舞伎やお祭りでもなじみ深い日本の伝統音楽です。2月23日に東京・中央区の日本橋劇場で開かれた演奏会では、新型コロナの感染拡大を防ごうと、消毒や検温、観客数の削減などさまざまな工夫が行われました。一体どんな工夫が施されているのか、本番前日に行われたリハーサル会場を含め、取材しました。

 この会を取り仕切るのは邦楽囃子・藤舎流6世家元の藤舎呂船さんです。呂船さんがコロナ禍の演奏会開催のために行った工夫が「鼻から下を覆う紺色の特製マスク」です。

 例えば通常のマスクが着けられない笛の演奏では、下が広く開いているこのマスクならば、そのままスムーズに笛を口元に運べます。さらに笛の空気が抜ける部分に布が掛かると音が出なくなってしまうため、空間を作るための装備も作りました。

 小鼓の演奏者にとってもこのマスクは重要です。小鼓はたたく革の湿り具合で音が微妙に変化するため、演奏する直前に息で革を湿らすことが大事な動作の一つです。これにも特製マスクが一役買っています。

 呂船さんがさまざまな工夫をして今回の演奏会開催を決めたのは大きな理由があります。それは「伝統の継承」です。1986年から始まり今年で36回目となる演奏会「真しほ会」は、発表会としての意味合いと演奏家同士の勉強会という2つの意味がある会だといいます。このため、コロナ禍でほとんどの演奏会が中止になる中でも、伝統を未来につなぐため、この演奏会だけは開催したいという呂船さんの強い気持ちがあったのです。

 そんな思いの中で行われた演奏会に、観客からは「素晴らしかった。日本の伝統を守ってほしいと思う」「心に響くんですよね。気持ちも明るくなるし、元気が出ます」「呂船先生はこの勉強会をずっと続けてこられた。素晴らしい流派だと思っている」などといった声も聞かれました。

 いまだ新型コロナの収束は見えませんが、呂船さんが見据えるのは“お囃子の未来”です。呂船さんは「7代先、──7代先が何年後か分からないが──そこまで考え、伝統芸能が続くように考えていきたいと思っている。それが仕事かな」と語りました。