スペースXが宇宙インターネット衛星を打ち上げ

米国の宇宙企業「スペースX」は2020年3月18日、自社の宇宙インターネット計画「スターリンク」の通信衛星を搭載した、「ファルコン9」ロケットを打ち上げた。

飛行中、1段目のエンジンが故障するも、他の正常なエンジンを若干長く噴射することで挽回し、打ち上げは成功した。

ただ、故障の原因や、今後の影響については明らかになっていない。

エンジンが故障するも軌道投入は成功

ファルコン9は日本時間3月18日21時16分(米東部夏時間8時16分)に、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射場から離昇した。

ロケットは当初、順調に飛行していたものの、打ち上げから約2分21秒後あたりで、9基ある1段目エンジン「マーリン1D」のうちの1基が突如として停止した。しかし、ファルコン9は自律的に、他の正常な8基のエンジンを予定より5秒ほど長く噴射することで挽回した。

そして、予定よりやや遅れて2段目を分離。その後、2段目は正常に飛行し、搭載していた衛星を軌道へ投入した。

1段目機体はその後、回収のため、大西洋に停泊していたドローン船への着地を試みたが、失敗に終わっている。打ち上げ時のエンジンの停止が原因かどうかは明らかにされていない。

打ち上げ後、スペースXのイーロン・マスクCEOはTwitterで「上昇中にエンジンの早期停止が起こったが、軌道投入には影響しなかった」とし、「エンジンを9基装備していることの価値が証明された」と述べた。

ファルコン9はもともと、今回のようにエンジンの1基が停止しても飛行を継続できるよう設計されている。過去にも、2012年のファルコン9 4号機の打ち上げで、同じくエンジンの1基にトラブルが発生したものの、他のエンジンの噴射時間を長くすることで補ったことがある。この打ち上げでは、国際宇宙ステーションに向かうドラゴン補給船と、衛星通信会社オーブコムの通信衛星を積んでおり、ドラゴンは軌道に乗せることができたものの、オーブコムの衛星の軌道投入には失敗している。

今回の打ち上げは当初、15日に予定されていたものの、エンジンに点火した直後、わずかに高い推力が検出されたことから、コンピューターが自動的に打ち上げを中止し、延期となっている。このことと今回のトラブルとの関係について、マスク氏は「関連している可能性があるが、確実ではない」としている。

ファルコン9の1段目の打上可能回数は設計では10回

今回打ち上げに使われた1段目は、2018年に2回、2019年にも2回飛行した機体で、今回が5回目の飛行だった。そのため、機体に蓄積した疲労が原因となった可能性はある。

マスク氏も「この機体は酷使されてきたので、今日起きたことは大きな驚きではない」としている。

くわえて、「今回のように酷使された機体は、自社の衛星の打ち上げミッションにのみ使用する。他の衛星を載せるときには使わないので、顧客を危険にさらすことはない」とも語った。

またマスク氏は、次の打ち上げまでに、今回のトラブルの「徹底した調査を行う」としている。

もっともマスク氏やスペースXは以前、「ファルコン9のブースター(1段目)は、飛行するごとに点検や改修は行うものの、基本的には大掛かりな作業をすることなく、10回の打ち上げをこなせるよう設計している」と語っており、その半分の5回目で問題が起きたことは、ロケットの再使用の難しさを示すとともに、今後のファルコン9の運用計画などに影響を与えることになるかもしれない。

また、ファルコン9は今年5月以降に、宇宙飛行士を乗せた「クルー・ドラゴン」を打ち上げる予定となっている。有人飛行ではこれほど酷使された機体が使われることはないものの、打ち上げの可否には米国航空宇宙局(NASA)の判断も関わることから、今回のトラブルの原因調査が長引いたり、あるいは改修などの是正処置などを施す必要が生じたりすれば、打ち上げ計画は遅れることになろう。
フェアリングの再使用は成功、スターリンク衛星は約360機に

今回の打ち上げでは、フェアリングの片方に、昨年5月に飛行し回収したものが再使用された。フェアリングの再使用は、昨年11月11日の打ち上げ以来、2回目となる。

今回の打ち上げ後も、フェアリングはパラフォイルで大西洋上に着水し、回収船によって回収されている。

また、今回の打ち上げにより、軌道上にあるスターリンク衛星は約360機となった。

スターリンクは、スペースXが構築を進めている宇宙インターネット・システムで、大量の衛星を地球低軌道に打ち上げ、地球を覆うように配備することで、全世界にブロードバンド・インターネットをつなげることを目指している。
1万2000機の通信衛星で世界中をカバー

スペースXではまず、1584機の衛星を打ち上げることを目指しており、また720機が揃った段階で、限定的ながら通信サービスができるとしている。今回の打ち上げで、半分に達したことになる(ただし故障などで、これまでに打ち上げられたすべての衛星が稼働しているわけではない)。

同社は最終的に1万2000機、さらにオプションで4万機を配備することを計画しており、これが実現すれば全世界で安定したブロードバンド・サービスが受けられるようになる。また、米軍もスターリンクの活用を検討していると報じられている。

一方、スターリンクは大量の衛星が低軌道を回ることもあり、太陽光で反射して輝きやすく、いわゆる「光害」となって、天文観測にとって障害となることが指摘されている。実際に光り輝くスターリンクが夜空を通過する様子が世界各地で目撃されており、また世界の天文学者からなる国際組織・国際天文学連合や、日本の国立天文台などは声明で懸念を表明している。

スペースXでは、衛星の反射率を下げる工夫を施したり、打ち上げに先立って軌道情報を公開し、天文観測との調整を図るとともに、電波の問題においては、電波望遠鏡などがある地域では電波を出さないようにしたりなどといった対策を行うとしているが、双方の隔たりはまだ埋まっていない。

○参考文献

・STARLINK MISSION | SpaceX
・Starlink Mission | SpaceX
・Sixth Starlink Mission Overview
・Elon Muskさん (@elonmusk) / Twitter

著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。