HPCの国際会議「ISC」で毎年開催されている「Student Cluster Competition(SCC)」は、学部の学生5人のチームがサーバークラスタを構築し、HPC計算を行って、その性能や技術を競うという競技である。

チームにはコーチが1人付くが、競技中は技術的な助言は禁じられており5人のチームメンバで相談して問題を解決していかなければならない。そのためには、クラスタを使った科学技術計算に深い知識を持っていることが必要で、課題が発表されるとそのプログラムを読み込んで理解することも必要となる。SCCの本選に出場したという経歴があればHPC関係の就職には困らないと言われている。

チームにはスポンサーが付き、クラスタを構成する機器の貸与、SCC出場のためのSC、あるいはISCに出席するための旅費などもスポンサーが負担する。そして、クラスタは消費電力が3kW以下であれば、スポンサーが貸与を認めればどんな機器を使っても良い。

消費電力は電力計でモニタされており、3kWを超えると超過電力量や超過時間に応じて減点される。

しかし、今回のISC2020は新型コロナ禍で、デジタル開催となり、チームも集まることができないので、クラスタを作ることも、競技のために運用することもできなくなった。そこで、ISC2020のSCCでは、シンガポールのNational Supercomputing Centerにクラスタを提供してもらい、それを各チームが使うという形式となった。例年は、各チームが自分たちが良いと思うクラスタ構成を作って、GPUを何台使うのかなどのバラエティーを出していたが、今年はそれができなくなってしまった。

しかし、チームが集まれない状況ではやむを得ない。まあ、HPC計算がAWSやAzureで行われる現状をみると、今回のようなやり方も、これからのHPCの方向性と合致しているとも言えるのではないかと思う。

SCC20の出場チームは、次の14チームである。なお、チームメンバの写真は画面キャプチャで、あまり品質が良くないが、我慢戴きたい。

「Center for High Performance Computing(CHPC)」は南アフリカの強豪チームで、昨年の優勝チームである。

「EPCC」は英国のエジンバラ大のチームで、SCCでは常連のチームである。

3番目のチームは、スイスの「ETH Zurich」のチームである。SCCへの出場の歴史は浅いがTimes Higher Education(THE)ではU. C. Berkeleyと並んで13位にランクされる名門校である。

通常、ISCはドイツで開催されるのでドイツの大学の出場が多く、今年も3チームが出場している。「Friedrich-Alexander大」は常連の出場校である。

2番目のドイツの出場校は「Hamburg大」である。

そして、ドイツからの3番目の出場校は「ハイデルベルグ大」である。

次は、シンガポールの「Nanyang(南洋)工科大学」である。THEで48位の東南アジアの名門校である。

台湾からの出場は台南市にある「国立成功大学」である。

インドネシアからの出場はジャワ州バンドンにある「Telkom大」のチームである

中国からの出場は名門清華大のチーム「Diablo」である。各チームメンバの得意分野が書かれている。

スペインの「Universitat Politecnia de Catalunya」は構内にバルセロナ・スーパーコンピュータセンター(BSC)を持ち、BSCとの結びつきが強いチームである。

「USTC」は安徽省合肥市にある国立大学である。

「Vilnius大学」はリトアニアから初参加の大学である。

ポーランドの「ワルシャワ大」は2017年ころから、アジアのASCおよびSC、ISCのSCCに出場しているチームである。

ISC2020のSCCでのアプリケーション部門の最初の課題は、「Tinker-HP」という分子動力学のシミュレータでCOVID-19ウイルスのプロテアーゼの解析を行うというものであった。

2番目の課題は「Elmer/ICE」という氷河などの氷の動きを有限要素法で解析するアプリを使ってグリーンランドの氷河の動きを解析するものとなった。

3番目のアプリは「ChaNGa」という重力多体問題のソルバを使って宇宙論的な銀河の動きをシミュレーションするものであった。

そして、コーディングチャレンジ部門では、2次元空間で動く粒子の振る舞いをシミュレーションするプログラムを作ることが求められた。

AIタスク部門ではトレーニング済のBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)モデルを使って自然言語処理を行い結果を出すことが求められた。

もう1つの課題は分子動力学のGROMACSを使って、植物性セルロースのバイオマスを解析するものであった。

そして成績は、HPCアプリの課題が40%、コーディングチャレンジが15%、AIチャレンジが20%で、答えの全体的なイノベーションが10%、審査員のインタビューでの課題の理解度や受け答えが15%という配分になっている。課題がいくつもあるので、5人のチームメンバで担当を決めて取り組むというのが一般的なやり方である。

そして、ISC2020におけるStudent Cluster Competitionの総合優勝は、中国科学技術大学(USTC)のチームが獲得した。2位は昨年優勝の南アフリカのCHPC、3位は清華大学が獲得した。次点のHonorable MentionはシンガポールのNanyang大学である。ファン投票ではスペインのUPCが最高点であった。

例年、最高LINPACK賞があるが、今回は全チームが同じマシンを使用しており、差がつかないので、最高LINPACK賞は無しとなった。

今回のSCCで特筆すべきことは、アメリカのチームが1チームも入っていないことである。新型コロナの感染者が多いアメリカは、それどころでは無いのであろうか。