国立天文台ならびに理化学研究所(理研)は9月25日、アルマ望遠鏡でふたつの大質量原始星「IRAS 16547-4247」を観測したところ、それぞれの原子星を囲むガス円盤の中に、チリが砕かれて飛び出した塩化ナトリウムや、高温に加熱された水蒸気が含まれていることを発見したと共同で発表した。

同成果は、国立天文台(当時・大阪大学)の田中圭特任研究員、理研のYichen Zhang基礎科学特別研究員、国立天文台(当時・総合研究大学院大学)の廣田朋也助教、理研の坂井南美主任研究員、山口大学の元木業人講師、東北大学(当時・大阪大学)の富田賢吾准教授、チャルマース工科大学/バージニア大学のJonathan C. Tan氏、米国立電波天文台のViviana Rosero氏、国立天文台の樋口あや特任研究員、理研の大橋聡研究員、バージニア大学のMengyao Liu氏、タイ国立天文学研究所/国立天文台の杉山孝一郎の特別客員研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、天文学専門誌「THE ASTROPHYSICAL JOURNAL LETTERS」に掲載された。

天の川銀河の恒星の4分の3は、太陽よりも小型の赤色矮星といわれている。ベテルギウスなど、太陽の10倍以上の大質量星もあるが、それらは割合としては少ない。太陽程度から下の小質量星の方が圧倒的に多いことから、観測も行われており理解も進んでいる。大質量星は数の少なさに加え、大質量星の誕生現場は地球から遠方にあることもあって、その形成メカニズムの理解は小質量星に比べると十分に進んでいないという。

大質量星は短命ながら大量の水素を核融合させて強烈な光と熱を放ち、そして最期には超新星爆発を起こして核融合で作り出した各種元素を宇宙に供給。さらには燃えかすとして中性子星やブラックホールを残し、一生に渡って周囲の宇宙環境に多大な影響を及ぼす。それ故、大質量星の形成メカニズムを理解することは、さまざまな宇宙現象を理解するために重要なことと考えられている。

大質量星の形成メカニズムにおいて特に重要なことは、生まれたばかりのときに、どのように周囲から物質を取り込んで巨大に成長していくのかを理解することだという。小質量星の場合は、生まれたばかりの原始星の周囲をガスの円盤が取り巻いていて、原始星の重力によって引きつけられた物質はいったん円盤に滞留し、そこからさらに原始星へと流れ込んでいくという過程が明らかになっている。大質量星も、おそらく同様の過程をたどるものと考えられている。

しかし、これまで大質量原始星の周囲を回るガス円盤の観測は十分に行えていなかった。その理由は、大質量原始星の周囲には非常に大量のガスが存在し、複雑な分布をしているため、ガス円盤を見分けるのが難しかったためだ。アルマ望遠鏡は人の目と比較すると、視力6000にも相当する超高感度を有する。だが、そんな高性能な電波望遠鏡群を持ってしても、大質量原始星の周囲のガス円盤を捉えた例は限られているのである。

そこで共同研究チームは今回、アルマ望遠鏡を用いてふたつの原始星からなる大質量原始連星「IRAS 16547-4247」を観測ターゲットとした。同連星はさそり座の方向に地球から約9500光年の距離にあり、連星の合計質量は太陽の25倍と見積もられている。そして、太陽質量の約1000倍という巨大なガス雲の中に深く隠れているため、アルマ望遠鏡による電波観測が最適だ。

高い分解能と感度を活かしてアルマ望遠鏡がまず捉えたのが、「IRAS 16547-4247」の周囲にあるさまざまな分子が放つ電波だった。そして、分子ごとに分布が大きく異なることが判明。有機分子のシアン化メチル(CH3CN)や二酸化硫黄(SO2)といった大質量原始星の観測でよく調べられる分子は、「IRAS 16547-4247」を大きく取り巻く領域から検出された。また大質量原始星それぞれの近傍からは、高温の水蒸気、塩化ナトリウム(NaCl)、一酸化ケイ素(SiO)が検出された。

これらの電波を解析した結果、以下の3点に示すような、「IRAS 16547-4247」の詳細な姿が浮かび上がってきた。(1)連星系を取り巻く大きなガス円盤、(2)大質量原始星それぞれを囲むふたつの小さなガス円盤、(3)そこから噴出するアウトフローとジェットなど。この中で(2)の小さなガス円盤は、それぞれ大質量原始星にガスを供給しており、その成長を探るカギとなるという。

さらに、研究チームが発見した興味深い兆候は、(2)の小さなガス円盤が、それぞれ互いに逆方向に回転しているということだった。もしこの連星系がひとつの巨大なガス円盤から分裂して誕生した“双子”だとしたら、それぞれの円盤は同じ方向に回転するはずだ。つまり、逆回転していることが間違いないとしたら、それぞれの原始星は少し離れた場所にあったガスの集まりから生まれ、やがて出会ってペアを組んだことが考えられるという。つまり「IRAS 16547-4247」は本当の双子ではなく、同じタイミングですぐ近所において誕生した他人同士だった可能性があるのだ。

このようにガス円盤の様子をつぶさに分析できたのは、原始星近傍にのみ含まれている塩化ナトリウムを検出できたことによる。塩化ナトリウムとは塩のことであり、我々ヒトには生きていくのに必須の物質だ。身近なイメージから、宇宙でも豊富に存在していそうだが、実はその逆。決してありふれた分子ではないのだという。それはこれまでの発見例からもわかる。大質量原始星の周囲の円盤で塩化ナトリウムが発見されたのは、これまで「オリオンKL電波源I(アイ)」しかなかったのだ。

ただし「オリオンKL電波源I」は大質量原始星の中でも少し変わった特性を持った星のため、塩化ナトリウムが本当に大質量原始星の近傍を観測するのに適しているのか、これまでは不確かだった。しかし今回の研究により、大質量原始星のガス円盤を探る上での重要な物質であることがはっきりしたという。なお、塩化ナトリウムは、高温に熱された水蒸気や、塵が砕かれることで飛び出したと考えられている。

現在、次世代の望遠鏡の建設や打ち上げが進められているが、電波望遠鏡に関しては次世代超大型電波干渉計「ngVLA」(next generation Very Large Array)の検討が進められている。米国立電波天文台が中心となって検討中で、アルマ望遠鏡よりも少し低い周波数の電波を非常に高い解像で観測できるようにするという。惑星形成や星間化学、銀河進化、パルサー研究、マルチメッセンジャー天文学などに大きな進展をもたらすことが期待されているが、恒星の誕生や進化もターゲットのひとつ。ngVLAなら、塩化ナトリウムのような塵の破壊で飛び出す分子が放つ電波を観測するのに、アルマ望遠鏡以上に最適とされている。ngVLAが稼働すれば、大質量星誕生のメカニズムがより明らかになっていくことだろう。

また、我々の太陽系の元となった原始太陽系円盤でも、塵が蒸発するような高温を経験したことが、隕石に含まれるさまざまな証拠から確認されている。研究チームは、塩化ナトリウムと高温の水蒸気などを手がかりとして、「熱い円盤」の観測を進めることで、太陽系誕生時の様子を探るヒントも得られる可能性があるとしている。