ハイブリッドモデルを豊富にラインアップするレクサスだが、冷静に考えると、今のところ電気自動車(EV)は販売していない。アウディやポルシェ、メルセデス・ベンツらが次々にEVをお披露目している状況を鑑みると、少し出遅れたのではないかと思ってしまう。

そんな折り、2019年11月の後半に中国・広州で行われたモーターショーで、それは発表された。名前は「レクサス UX300e」。その名の通り、コンパクトSUVの「UX」をベースとするEVだ。

○なぜ「UX」をベースにEVを作るのか

レクサスが市販車ベースのEVを作るにあたり、UXに白羽の矢が立ったのにはちゃんと理由がある。フロア下部にリチウムイオンバッテリーを敷き詰めるスペースがあったのだ。そのあたりの事情は、アウディ「e-tron」、メルセデス・ベンツ「EQC」、ジャガー「I-PACE」といったEVを見ればわかる。最低地上高を高く取れるSUVやクロスオーバー車の方が、セダンよりもスペース効率が良いのだ。

また、UXはサイズも理想的だ。ディメンションが大きくなり車両重量がかさむと、その分、バッテリーも増やさなくてはならなくなる。そうなると、さらに車両重量は増えて、運動性能が落ちてしまうという悪循環に陥るのだ。

もちろん、テスラ「モデルS」のように、EV専用設計のクルマを作るのであれば、バッテリーの積み方は工夫できる。だが、専用車を作ることにはリスクが伴う。汎用車であれば、ほかの動力源を積むモデルを売ることでリスクを分散できるが、EV専用車の場合、売れなければ一巻の終わりだ。1度失敗してしまうと、2号機に着手するまでに相当な年月が空いてしまうかもしれない。

そんな背景が読み取れる今回のUX300eだが、広州モーターショーの会場でレクサスの首脳陣にインタビューしたところ、同社としては、2025年にはEV専用車を販売するという計画を持っているとのことだった。まぁ、その間にヨーロッパ勢の攻勢が始まるであろうが、EVマーケットの成熟を待つのであれば、2025年あたりは妥当なのかもしれない。無論、状況によってはさらに早める措置も頭の中に入れておかなければならないだろう。

そんな中で登場したUX300eだが、実は、ワールドプレミアの少し前に、開発中のモデルをテストコースで走らせる機会を得た。UX300eを含めた先行開発中のモデルを数台、試乗したのである。

なぜ、先行開発中のクルマに我々を乗せたのかといえば、その狙いはレクサスブランドのイメージアップにほかならない。ヨーロッパのメーカーは、そのあたりの戦略に抜かりがなく、これまでも一部メディアに先行開発モデルや技術の情報を提供してきた。メルセデス・ベンツやBMW、アウディに関していえば、そうしたワークショップをシュツットガルトやミュンヘン近郊で年に数回開催している。

日本メーカーが、こういったブランド戦略に長けているかというと、必ずしもそうではない。その意味でも今回、レクサスがUX300eをはじめとする開発中のモデルや技術をメディアに先行体験させたことは、大きな意味を持つ。これにより、「レクサスはハイブリッド技術に甘んじていて、EV開発は遅れている」といったイメージが払拭できるし、我々にしてみても、彼ら流の考え方を目の当たりにすることができたからだ。
○開発中の「UX300e」に試乗!

実際に走らせた開発中のUX300eは、市販化前提のEVとしてはほぼほぼ完成していた。EV特有の力強いスタートとアクセルを踏み込んでの中間加速は文句なし。高速道路でクルマの流れを作るだけのパフォーマンスは十分に備えている。しかも、いきなりトルクが立ち上がるのではなく、アクセルに対する加速は比較的リニアで、自然なフィーリングを得られた。

実は、この加速感は大事な部分であり、ジャガー「I-PACE」やアウディ「e-tron」などは、そこにブランドのアイデンティティを注入している。加速Gの立ち上げ方やハンドリング、クルマの挙動などを総合的に管理、そして味付けし、ブランドの“らしさ”を表現しているのだ。

その点からすると、UX300eのプロトタイプには、最後の詰めが必要な部分もあった。例えばハンドリングや、コーナリング時のクルマの挙動などだ。そもそも、クロスオーバーとしてのUXはハンドリングが良いクルマであるだけに、そこに近づけたいところなのだが、バッテリーを敷き詰めたキャビン下部の重さが、軽快なハンドリングを邪魔してしまっていた。

ただ、UX300eの発売は中国で2020年春、北米で同年夏であり、日本では2021年春のローンチを予定しているとのことなので、それまでにはブラッシュアップが施されるだろう。中国や北米からのフィードバックが、UX300eをさらに磨き上げるはずだ。開発部隊も生産拠点も日本にあるので、そこには大いに期待できる。ちなみに、現時点のスペックを見ると、航続距離は400キロ、最高出力は204ps、最大トルクは300Nmとの表記である。まぁ、この数値も、ライバルの動向によっては変わってくるだろう。

このほかのトピックスとして、UX300eのコネクティッド技術に触れておきたい。このクルマ、専用アプリをダウンロードすれば、スマートフォンで車両状況をチェックすることができる。バッテリー残量や走行可能距離、充電完了までの時間などを手元で把握できるのは便利。さらに、エアコンやシートヒーター、デフロスター(フロントガラスのくもりなどを抑える機能)などの遠隔操作も可能だ。

最後に、レクサスとEVの親和性の高さについて、ひとつだけ付け加えよう。そもそもレクサスは、静粛性の高いクルマを作ることに長けたブランドである。そんな同社にとって、エンジン音と排気音のないEVをラインアップできることは、大きなメリットになる。EVを走らせている時に聞こえてくるのは、風切り音、ロードノイズ、それと、少しのモーター音くらい。しかも、ロードノイズはかなり低減できる。その理由は、床下のバッテリーが遮音効果をもたらしているということらしい。

以上、レクサス初のEVについて現時点で分かっていることと、開発中の車両を運転してみて感じたことをお伝えしてきた。今後は、さらなる情報が明らかになってくることだろう。文中にも記したが、レクサスの近未来戦略は極めて頼もしい。詳細はまだ書けないが、我々クルマ好きの期待を上回る技術開発が進んでいるようなのだ。その点からも、UX300eの今後の動向には興味津々である。

○著者情報:九島辰也(クシマ・タツヤ)
外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。『Car EX』(世界文化社)副編集長、『アメリカンSUV』(エイ出版社)編集長などを経てフリーランスに。その後はメンズ誌『LEON』(主婦と生活社)副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、ゴルフ、クルーザーといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしてもさまざまな商品に関わっている。一般社団法人 日本葉巻協会会員。東京・自由が丘出身。