ゾウが目まいを起こしているようにクルクルと回り、突然、倒れて死ぬ。顔から倒れることもある。ボツワナではこの数カ月、数百頭のゾウが命を落としており、一部のゾウは前述のような症状を示していた。なぜかは誰もわからない。

 この奇妙な行動と死亡数の増え方から、結核など、野生のゾウがよくかかる既知の病気が原因である可能性は低いと専門家たちは考えている。ゾウたちの牙はなくなっておらず、象牙を目的とした密猟の可能性もない。しかし、死亡数は増え続けている。政府当局が確認しただけで、3月以降、281頭が命を落としている。一帯で活動する自然保護NGOは、死亡数はもっと多いはずだと予想している。

「多くのゾウが死んでいることは確かですが、個体数の観点からすると、深刻な状況ではありません」と、野生動物を専門とする獣医師のマーカス・ホフメイヤー氏は話す。ホフメイヤー氏は南アフリカのクルーガー国立公園で獣医長を務めた経歴を持つ。「ただし、犯罪行為の可能性を除外するため、死因を診断することは重要です。何らかの不正が行われていた場合、対処しなければ、個体数の問題に発展する恐れがあります」

 ボツワナには推定13万頭のサバンナゾウが生息する。象牙を目的とした密猟が原因で、サバンナゾウの個体数は全体で約35万頭まで減少しており、ボツワナはアフリカ最後のとりでの一つだ。

 現在、不審死が確認されている個体群は、オカバンゴ・デルタ北東の辺境約2500平方キロの広大な土地に暮らしている。個体群の規模は推定1万8000頭。一帯の人口は約1万6000人で、家畜のウシも1万8000頭ほどいる。

 獣医師や野生動物専門家への取材、過去にゾウが大量死した事例を総合すると、ボツワナのゾウたちの死因として考えられるのは、水に含まれる有毒な細菌の摂取、炭疽(たんそ)菌、人による毒殺、げっ歯類からのウイルス感染、未知の病原体だ。もちろん、複数の原因が重なっている可能性もある。2020年は、何年も干ばつが続いた後、通常より遅い時期に大雨に見舞われた。もしもこうした環境的な要因が関係しているなら、なおさらだ。

 専門家によれば、正確な死因を突き止めるには、ゾウの死後、間髪を入れず、死骸と付近の土や水を採取する必要があるという。ボツワナの辺境では難しいことだ。ゾウの死骸は数日たってから発見されることが多く、それまでに、焼けるような日差しが死骸の分解を促進し、重要な証拠を消し去る可能性が高い。腐肉食動物が臓器を食べてしまい、回収が間に合わないこともある。

 それでは、現時点で考えられる死因とそれらが持つ意味を1つずつ見ていこう。

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