スミロドンのようなネコ科動物は他にいない。絶滅したサーベルタイガーの仲間で、氷河時代の捕食者だったスミロドンは現代のトラより大きかった。驚くほど力強いその四肢で獲物を押さえ付け、20センチ近くある歯を腹部や喉元に突き刺した。

 博物館の展示や大衆文学、映画では、「ナイフの歯」を意味するスミロドンは凶暴性の典型であり、更新世の北米の草原で大きく湾曲した牙を駆使し、獲物の命を奪う姿が描かれている。

 米バンダービルト大学の古生物学者ラリサ・デサンティス氏は、現代のライオンのように噛みついて窒息死させるのではなく、スミロドンは「サーベルのような歯で失血死させていたのでしょう」と説明する。

 スミロドンはこのような狩りの戦略でラクダやウマのような大きな獲物を仕留めていた。約1万2000年前まで続いた最終氷期には、北米にもこれらの動物が生息していた。

 しかし、サーベルのような歯をもつ獣はスミロドンだけではなかった。例えば、外見はスミロドンと似ているティラコスミルスという有袋類も、長い牙をもっていた。ただし、2020年6月に学術誌「Paleontology and Evolutionary Science」に発表された最新の研究によれば、ティラコスミルスはおそらく捕食者ではなかったという。ティラコスミルスはカンガルーやウォンバットのような有袋類だが、捕食者というよりスカベンジャー(腐肉食者)に近く、長い剣歯で死骸を切り裂き、残りものにありついていた可能性が指摘されている。

「ティラコスミルスは有袋類のサーベルタイガーではありません」とデサンティス氏は話す。「その生態はおそらく、現存するどの動物とも全く違うものでした。柔らかい臓器のみを食べる肉食動物です」

 この発見は、剣歯と呼ばれるとりわけ長く鋭い犬歯が数億年にわたりさまざまな動物に見られたことを示す新たな証拠であり、科学者たちはその多機能性に驚かされている。生物の長い進化の歴史のなかでは、草食動物ですら剣歯を獲得していた。

 米デモイン大学の古生物学者ジュリー・ミーチェン氏は「犬歯にはいくつもの用途があるのです」と話す。

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