「バイキング」と聞いて私たちが思い浮かべるのは、木製のスマートな船に乗って北欧の海岸線を略奪していた、亜麻色の髪をしたスカンディナビアの屈強な戦士だろう。

 バイキングについては、複雑な血統をもつ海の冒険者を称える古い物語が数多く伝えられているにもかかわらず、彼らは「純粋」な血統をもつ独自の民族または地域集団だった、という神話が今でも根強く信じられている。しかし、バイキングを象徴する角つきの兜と同じく、これは19世紀後半のヨーロッパで燃え上がった民族主義運動が生み出した悪しき神話にすぎない。バイキングの優位性によりヘイトを正当化し、固定観念を永続させようとする白人至上主義者の間では、こうした虚構が今もなお称賛されている。

 9月16日付けの学術誌「ネイチャー」に発表された古代人のDNAの大規模研究は、私たちがバイキングと呼ぶ人々の遺伝的多様性を明らかにし、縦横無尽に活躍した強い政治力をもつ商人と探検家の集団の事実を明らかにした。それは、歴史的・考古学的証拠が以前から示唆していたことでもあった。

曖昧な起源

 バイキングとは何者だったのか? 実は、その答えは明確ではない。英語の「バイキング(Viking)」という言葉は、襲撃、探検、略奪などを意味する「víking」という古ノルド語(古北欧語)に由来する。略奪を受けた側の人々が用いたこの言葉は、「バイキング時代」とされる西暦750年から1050年にかけて、スカンディナビアの船乗りの集団を意味していた。

「ネイチャー」の研究では、バイキングが進出したとされる地域に埋葬された、紀元前2400年頃から西暦1600年頃までの442人の遺骨の遺伝子データがまとめられている。調べられた遺骨のなかには、バイキングが旅をしたグリーンランドなどの地域に埋葬されていただけのものもあれば、スカンディナビア様式のコインや武器や船と一緒に埋葬されていたものもあった。

 北欧、イタリア、グリーンランドの80カ所以上の遺跡から数百点のDNAサンプルを集めるにはたいへんな苦労があった。さらに、遺骨から抽出された膨大な量の情報を分析するという作業もあった。デンマーク、コペンハーゲン大学の地理遺伝学センター・オブ・エクセレンスの所長を務める進化遺伝学者で、バイキングゲノムプロジェクトを主導したエシュケ・ウィラースレフ氏は、「このデータを分析するにあたって、これほどまでに計算上の困難に直面するとは想像していませんでした」と打ち明ける。

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