人々が何かを正しく理解することに、誤った情報がどれほど影響を与えるかをいちばんよく知っている人々といえば、気候科学者だろう。彼らは長年、地球の温暖化を示す科学的な知見を伝えようと努力する一方で、誤った解釈やフェイクニュースとも闘ってきた。コロナ禍の今、これと同様のインフォデミック(正しい情報と誤った情報の両方が氾濫している状態)が世界を揺るがせている。

 近年、インターネットを使って簡単に学術論文を入手できるようになったおかげで、誰もが新型コロナや気候変動のにわか専門家になれるようになった。しかしこうした人々は、自分に都合のよいデータを選び出して、もっともらしいことを言っている場合がある。

 彼らはテレビなどの旧来のメディアにも登場するが、主な活躍の場はSNSやYouTubeなどの動画共有サービスだ。理由の一端は、こうした場がまだほとんど規制されていないことであり、投稿によって受けられる注目、つまり「いいね!」をもらえることが、誤情報を共有する動機づけになっている。

 気候変動や新型コロナを遠い存在と感じる人も多い。そうした人々は潜在的な危険性を過小評価しがちだ。問題が見えていない彼らには、現状を変えようとする対策は悪いものにしか見えないだろう。

「気候変動対策について語ると、必ず『経済を破壊するつもりか』と反論されますが、もちろん、気候変動対策が経済を破壊することなどありえません」と、米テキサス工科大学の気候科学者キャサリン・ヘイホー氏は言う。

 誤情報の広まりについて研究している人々は、その勢いは圧倒的に見えるかもしれないが、対抗する方法はあると言う。誤情報がどのように見えるのか、どこから来ているのかを知ることで、私たちは事実を正しく認識できる。」)

新型コロナ関連論文、すでに数万

 今年、世界中の科学者が新型コロナに関する論文を猛烈なペースで発表していて、その数はすでに数万編にのぼっている。

 しかし、新型コロナに関する情報をできるだけ早く公的機関に広めるため、科学雑誌には、通常の論文発表に必要とされる慎重な審査を大急ぎで済ませなければならない重圧がかかっている。

 既定の審査を経ずに発表できる「プレプリント・サーバー」に投稿される論文も急増している。論文を学術雑誌に発表するためには同じ分野の研究者に論文を評価してもらう査読というプロセスを経る必要があるが、書き上げた論文をプレプリント・サーバーに投稿すれば、査読が済んでいない段階でも人々に読んでもらうことができる。

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