8000年以上前、現在のイングランド北西部の海岸を人類がはだしで歩き、消えない足跡を残した。先史時代の狩猟採集民と私たち現代人はあまり共通点がないかもしれないが、10代の少年が残した足跡が、意外な接点を教えてくれている。足の指の付け根から外側に突き出た腫れ(バニオン)の痕跡だ。

 バニオンを引き起こす外反母趾(がいはんぼし)や内反小趾(ないはんしょうし)は、古代から人類を悩ませてきた。しかし、そもそもなぜ私たちは外反母趾になるのだろう? そして、なぜ手術なしで治す方法が見つかっていないのだろう? ここでは、私たちはどのようにこの苦しみを抱えるようになり、なぜいまだに科学者を当惑させているのかを解説する。

永遠の病

 考古学と歴史を垣間見れば、これらの病が古代から存在したことがわかる。イングランドに残された先史時代の足跡から古代エジプトのミイラまで、証拠はたくさんある。

 14〜15世紀にイングランドのケンブリッジ周辺に埋葬された遺骨の実に27%に外反母趾の証拠が見られた。それ以前(11〜13世紀)の遺骨ではわずか6%だった。研究者たちは、中世に登場した爪先が長くとがった革靴「プーレーヌ」が原因だと考えている。

外反母趾とは?

 外反母趾は、足の親指がほかの指の方に傾き、親指の関節が横から突き出る足の変形だ。この変形はほかの指にも影響し、神経痛、しびれ、皮膚炎、たこ、うおのめ、腫れ、発赤、さらには足の指の関節が曲がったままになる「ハンマートゥ」や「クロートゥ」といった変形を引き起こす。

 外反母趾ほど一般的ではないものの、足の小指の関節で同じようなことが起きる内反小趾もある。冒頭で紹介した8000年前の足跡は、こちらの内反小趾だった。

 現在、外反母趾は最も一般的な足の病気のひとつだ。患っている人の割合の推定はさまざまだが、成人の約4人に1人が外反母趾に悩んでいるようで、女性や65歳以上に多く見られる。ほとんどの外反母趾は軽度で無症状だが、生活の質や運動能力に影響を与え、慢性的な痛みや転倒につながることもある。

次ページ:外反母趾になる原因は?