激変する天然ガス地政学----アメリカが崩すロシア支配

<アメリカが、ヨーロッパ市場を独占するロシア企業の優位を脅かそうとしている。アメリカはヨーロッパを解放できるか?>

アメリカが、ヨーロッパでロシアの影響力に対抗する新たな手段を獲得した。液化天然ガス(LNG)だ。

地中深くの頁岩(シェール)層からの天然ガス採掘を可能にした「シェール革命」のおかげで、アメリカは天然ガスブーム。天然ガスを液化したLNG(液化天然ガス)の輸出では2020年までに世界3位になる勢いだ。

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アメリカはこれを好機と捉え、世界の天然ガス市場へ支配を広げ、ヨーロッパ市場を独占してきたロシアに挑戦している。

ドナルド・トランプ米大統領は7月上旬、ドイツで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議の前にポーランドを訪問し、アメリカはヨーロッパ向けに天然ガス輸出を保証し、「ポーランドや周辺国はもう二度と、エネルギー供給源を1つの国(ロシア)だけに依存しなくてよくなる」と言った。

ヨーロッパ諸国は、トランプが8月2日に署名し成立した対ロ制裁強化法案を非難してきた。制裁対象になるロシアの天然ガス輸出パイプラインの建設に関わるヨーロッパ企業にも適用される可能性がある。ドイツのシグマール・ガブリエル外相とオーストリアのクリスチャン・カーン首相は、「ヨーロッパのエネルギー調達はヨーロッパの問題だ、アメリカの問題ではない」として同法を批判した。

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欧米ロシアの三角関係

欧米間やヨーロッパ域内でエネルギーをめぐる緊張が高まっている原因は、ロシアが主導するガスパイプライン建設計画「ノルド・ストリーム2」にある。

計画を進めるロシアの国営ガス会社ガスプロムは、バルト海経由でロシアからヨーロッパに天然ガスを運ぶ現行の「ノルド・ストリーム」を拡充し、ウクライナを迂回することで同国に支払うガス通行料をなくそうとしている。

「ノルド・ストリーム2」に対し、ヨーロッパ諸国の受け止め方はさまざまだ。ロシアの天然ガスの最大の消費国であるオーストリア、フランス、ドイツなどは支持している。一方、バルト3国や北欧諸国は、ヨーロッパの天然ガス市場でロシア企業の独占が強まり、地域の安全保障上の脅威になるとして批判してきた。

大西洋評議会のシニアフェローでエネルギー市場の専門家であるアグニア・グリガスは、新書『天然ガスの新たな地政学(The New Geopolitics of Natural Gas)』(ハーバード大学出版局、2017年)で、天然ガスをめぐるヨーロッパとロシアとアメリカの三角関係を理解するうえで基礎となる地政学を見事に説明している。



グリガスは世界の天然ガス市場における複雑な情勢を図式化し、とりわけロシアがガスプロムをヨーロッパやユーラシア地域との駆け引きに利用していることや、アメリカが主導する世界的な天然ガスブームにも着目している。

たとえこのまま「ノルド・ストリーム2」の建設計画が進んでも、ヨーロッパ市場でロシアの独占は崩れつつあると、グリガスは言う。アメリカを筆頭に新たな天然ガスの調達先が出現したことを追い風に、ロシアの計画に反対する国が増加しているのだ。

リトアニアはバルト海沿岸の港にLNGターミナルを建設し、ロシア以外の調達先からも輸入できるようにした。今年に入り、アメリカからLNGを購入する契約も締結した。ポーランドはすでにアメリカからLNG輸出第1号を調達し、追加の契約を締結した。

アメリカのシェールブームばかりでなく、調達先の分散や効率化、再生可能なエネルギーの利用促進を目指すEU独自のエネルギー政策が生み出す新しいビジネスチャンスは、ヨーロッパ諸国にロシア以上に魅力的なエネルギーの調達先を与えてくれると、グリガスは言う。

世界のLNG輸出は今後少なくとも20%は増加する見込みだ。エネルギー輸出国としてのアメリカとロシアの競争の舞台は、ヨーロッパ市場のみならず世界中に拡大する可能性がある。

ロシアの独占は終わる

ロシアは年内に、北極圏のヤマル半島で3つ目のLNGターミナルを開く予定だ。もしうまくいけば、ロシアの独立系ガス大手ノバテクはLNG市場参入が比較的遅かったロシアがアメリカに追いつき対抗する原動力になるかもしれない。

グリガスは、LNGが今後各国の外交にいかに影響するかを見通した上で、ヨーロッパやアジアの天然ガス市場がロシア依存から脱却するためにアメリカのLNGが重要な役割を果たすと強調している。

アメリカはシェール革命に投資し新しいグローバルな天然ガス市場を構築することで、ヨーロッパへのLNG輸出を最大化できる。LNGの輸出拡大は、トランプ政権の目玉政策の1つでもある。新しい天然ガス輸出大国が台頭し、新たな関係が形成されるにつれて、ロシアのガスパイプラインが独占してきた従来の市場は淘汰されるだろう。

(翻訳:河原里香)

This article first appeared on the Atlantic Council site.


マリ・デュガス(ハーバード大学ケネディー行政大学院、ベルファー科学・国際関係研究所スタッフ)

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