トランプの力を過信して米議会に負けたプーチン、次の一手

<プーチンは、トランプの「強権」で対ロ制裁を解除させようとして米議会の制裁強化を食らってしまった。このまま引き下がるわけがない>

先週、ロシアに対する制裁強化法案にいやいや署名させられたドナルド・トランプ米大統領が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を羨ましがっていたとしても不思議ではない。

ロシアでは、議会が大統領の政策をつぶそうとしたり、メディアが大統領の失敗をいちいちあげつらったりしないし、大統領の防壁である情報機関が大統領のあら探しをすることなどあり得ない。

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トランプが、世論に押されて対ロ制裁強化法案に署名し、対ロ外交の自由を失ったのに対し、プーチンは好きなように対米外交を行える。

それほどに、両国の政治風土はまったく違う。それが今、相互に影響を及ぼそうとしている。

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米紙ワシントン・ポストによれば、トランプと同じ共和党のある上院議員は最近、こう明言した。「我々はアメリカ国民に奉仕する。大統領に仕えるのではない。政権が望むことを議会が従うのは、それが決して国民を苦しめない場合に限る」(サウスカロライナ州選出、ティム・スコット上院議員)

あり得ない大統領批判

ロシアでは、議員が大統領にこんな物言いをするなど、野党議員でもあり得ない。

ロシアはアメリカと違う。ロシアのビャチェスラフ・ボロディン下院議長は、大統領と国家を同等とみなす発言をしたことがある。「プーチンがいるから、ロシアはある。もしプーチンがいなければ、今のロシアはないだろう」。ロシアが主催する国際科学会議「バルダイ会議」に大統領府の副長官として出席した2014年、ボロディンはこう演説した。

今年初めの学生らとの会合で、大統領の名誉と威厳を保護する法律を新たに制定するよう主張した1人の学生の提案を、ボロディンは熱烈に支持した。「君の言う通りだ。世界史を振り返れば、君が言ったような法律が切望されているのが分かる。どこにでもある法律だ」

行政府を保護する様々な法律は、世界中に存在する。だがロシアの大統領は、さらなる保護を必要としない。既存の法律で十分だ。

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メディアに関して言えば、ロシアメディアが自国の大統領を攻撃することは極めて稀なため、ロシア政府はメディア規制の必要性を説くために、わざわざアメリカメディアの例を持ち出さなくてはならないほどだ。



大統領の権威を守り、在任中の大統領に対する国民の支持を取り付けることは、ロシア政府の成功を判断する究極の尺度になる。ロシア政治の日課は、大統領の支持率や次の大統領選に関するテクニカルなデータを分析し、大統領が次の任期でどの政治家をキープし、出世させ、或いは切り捨てるかを憶測することの繰り返しだ。

ロシア国内のほとんどの組織が、行政府を保護するために存在しているのは誰もが知るところだ。それでも現在の米ロ関係を踏まえれば、この問題は熟考する価値がある。どんな政府であれ、最も重要な力を持つのは行政府だとみなすロシア流の考え方は、2016年の米大統領選に対するロシア政府の取り組みを理解するうえで重要だ。

ロシア政府や民間のハッカーが米大統領選に介入したかどうかについて、筆者にはいまだにさっぱりわからない。ただ、ロシア政府が昨年の米大統領選を重視していたことは間違いないだろう。

ロシア在住の熱心なアメリカウォッチャーの多くは、ロシア政府の目的は、次期大統領選になるのは確実とみられていた民主党候補ヒラリー・クリントンの足を引っ張ることであり、予測不能なトランプを大統領に担ぐことではなかったという見方で一致する。

たちはだかる「システム」

行政府が最も優位に立つというロシアの前提に照らすと、トランプの勝利ははなから非現実的でもあった。「アメリカのエリート」や「システム」はトランプのような候補を勝たせない、というのが2016年のロシアでは常識だったからだ。

米大統領選の直後、ブルームバーグの取材に答えた複数のアメリカウォッチャーは、トランプの勝利は予想外だったと認めた。彼らのほとんどは、プーチンは手放しで歓迎する前に、トランプがどのような出方をするか注意深く見守るだろうと予測した。

いずれにせよ、当時のロシア側の焦点は誰が行政府のトップである大統領になるかに絞られていた。米大統領選挙から8カ月以上経った今になってようやくロシア政府は、相手にしなければならないのは行政府だけではなく、米議会や情報機関、法執行機関、メディアなども含まれるのだと実感しているところだ。

たとえロシアがアメリカの行政府をハッキングしようと、或いは取り入ろうと、想像以上に複雑な「システム」という壁が立ちはだかる。ロシア政府の狙いは、対等な相手とみなすアメリカの行政府と取引することだった。だが期せずして、別の政府部門である立法府、即ち米議会を強化してしまった。



ロシアでは「システム」という用語が重要だ。通常は、政府機関や治安部隊、警察、情報機関が社会に及ぼすある種の影響力を示す。米歴史家のスティーブン・コトキンはそれを「非市民社会」と呼んだ。

健全な「非市民社会」(ロシアのエスタブリッシュメント曰く賢明なシステム)とは、選挙を実施し表面的な変化を起こしながら、政府が支配し続ける社会を指す。

ロシア政府関係者の多くは、アメリカでもこのシステムが通用すると確信している。彼らはこのシステムを自由に使いこなすことこそ、アメリカから学んだ重要な教訓だと考えていた。

「システムは必ず成功すると、アメリカ人から教わった」と、ロシアのコンスタンティン・コサチェフ上院国際問題委員長はロシア国営テレビ「ロシア・ワン」のインタビューで語った。

今、ロシア政府関係者は米議会がロソフォビア(ロシア嫌悪)に陥っていると非難する一方、トランプへの批判は控えている。だが先週アメリカが対ロシア制裁強化法を成立させたことで、米ロの関係修復は絶望的になった。ロシアの政策目標は、アメリカの行政府に影響力を及ぼし制裁を一気に解除させることだったからだ。ロシア政府がこの状況で引き下がるとは到底考えられない。

ロシアの次の手は撹乱作戦

ロシア政府はきっと、アメリカの行政府と米議会、政府機関や社会の間にさらなる不協和音を作ろうとする。すぐにロシアが大きな勝利を収めることはないかもしれないが、ロシアの政治家の政治思想の正しさを証明するという意味で、満足感に浸ることはできるだろう。

アメリカの行政府と議会の関係が過度に不安定になれば、ロシアが意見の不一致を指摘しアメリカ政治の「分裂状態」をあざ笑うチャンスが山ほど出てくるのは間違いない。政権内の亀裂を露わにして就任後わずか10日間でトランプに更迭されたホワイトハウスのアンソニー・スカラムッチ広報部長を見れば、すでにそれは明らかだ。

有能な政府はあらゆる政府機関を行政府に従わせる、というのがロシア政府のイデオロギーだ。行政府を議会やメディアといった足かせから解放せよ、そうすれば国民も救われる、という考え方だ。

このイデオロギーに対し、トランプは果たしてどんな立場を取るのだろうか。

(翻訳:河原里香)

This article first appeared on the Wilson Center site.


マクシム・トルボビューボフ(米ケナン研究所上級研究員)

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