河野外相に対する中国の期待と失望

8月3日に河野太郎氏が外相に就くと、中国では河野洋平氏の息子への期待感が膨らんだ。しかしマニラで開催されたASEAN外相拡大会議での河野外相の発言を受け、王毅外相は失望したと直言。詳細を考察する。

内閣改造、中国で「支持率」一時上昇

8月3日に安倍内閣の内閣改造陣営が発表されると、中国は一斉に河野外相に注目。中国共産党の報道局である中央テレビ局CCTVは盛んに新外相に対する期待を報道した。

たとえば「日本新外相:日韓慰安婦問題合意を実行することは非常に重要 進展を期待する」という番組では、3日夜に河野外相が行なった記者会見で慰安婦問題解決のために述べた以下の言葉を使っている。

――慰安婦問題に関する我が国の立場は,総理が戦後70年の談話で仰られたこと、それと、両国政府が確認をした日韓合意にあるわけでございます。それ以上、私が付け加えることはございません。日韓の合意が着実に実行されるということが望ましいと思っております。

この回答自身は客観的に見れば問題はないが、番組では「慰安婦問題が重要で、望ましい方向での進展を期待する」といったニュアンスになっており、さもなければ日韓関係は冬の時代に入るだろうとしている。

一方、中国共産党機関紙「人民日報」の電子版「人民網」、8月2日の段階での情報により「河野太郎が日本の新外相になる 父親は知華派外交家」という見出しの報道をしている。「知華派」というのは「知日派」という言葉にもあるように「知中派」を指すが、ここでは「親中派」を示唆している。この報道では、河野洋平氏が内閣官房長官だった1993年に「河野談話」を発表し、慰安婦問題に関して謝罪したことを高く評価している。

河野談話には問題あり

しかしこの河野談話をまとめるにあたって、日本政府が行った調査過程に問題があり、河野談話の表現に関しても韓国との事前調整があったことが判明して、客観性に欠けるという批判が出ている。そもそも河野談話が依拠している慰安婦問題は、朝日新聞が文筆家、吉田清治氏の証言に基づいたものが多く、吉田清治氏自身は1995年になってから「自分の証言は主張を織り交ぜた創作である」と、自ら小説性(創作性)を認めた。史実に対する創作性は、すなわち虚偽性でもある。適宜、売れるように「小説として粉飾した」ということになる。

その長男は、自分の父親が虚偽の証言を続けてきたことに耐えかねて、「慰安婦像をクレーン車で撤去したい」と訴えたそうだ。平成28年9月号の『新潮45』に、長男を取材した大高未貴氏が書いている。また『父の謝罪碑を撤去します』という本も産経新聞出版から出版しており、慰安婦問題および河野談話には多くの虚偽が含まれていることは周知のことだ。



朝日新聞は2014年に複数の謝罪記事を出したが、「覆水盆に返らず」。

朝日新聞が発信し続けた慰安婦問題に関する「日本の罪」は、すでにアメリカをはじめとした世界の津々浦々に拡散してしまい、回収不可能な状況になっている。

それを河野太郎氏が引き継ぐとしたら、こんな罪作りなことはないと、「中国の期待」と河野外相の言動に筆者も注目していた。

王毅外相を失望させた河野外相

その折りも折り、8月7日に行われた日中外相会談で、河野外相は王毅外相に「失望した」と言わせた。いいことだ。王毅外相を喜ばせるようでは失格だ。それこそ、日本国民の一人として「失望する」。

中国では前述のとおり、河野外相にはあの河野談話の息子として熱いエールが送られていた。これで日中関係がうまくいくと、ありがたくない期待をかけられていたのだ。

失望した理由は、河野外相がASEAN外相拡大会議で南シナ海に関して懸念を示す発言をしたからだという。王毅外相は河野外相の発言に対して「アメリカがあなたに与えた任務のように感じた」「率直に言って失望した」とストレートに言った。

それに対して河野外相が「中国には大国としての振舞い方を見につけていただく必要がある」と返している。

なかなか気骨があると思ったが、一方で河野外相は王毅外相に「今回のASEAN関連外相会合に来て、私のおやじを知っている方が大変多い。いろんな方からおやじの話をされ、その息子ということで、いろんな方から笑顔を向けていただいた。親というのはありがたいもんだなと改めて思った次第だ」と述べている。

就任直後の記者会見では、たしか「親と息子は違う」という主旨のことを言っていたと思うが、なぜこともあろうに王毅外相に「親というものはありがたい」などと言ってしまったのか。これでは河野談話を肯定したようなものではないか。

吉田証言の吉田清治氏長男との違い

吉田清治氏の長男は、「父が発信し続けた虚偽によって日韓国民が不必要な対立をすることも、それが史実として世界に喧伝され続けることも、これ以上、私は耐えられません。吉田家は私の代で終わりますが、日本の皆様、そしてその子孫は後に遺されます。いったい私は吉田家最後の人間として、どうやって罪を償えばいいのでしょうか」と言っている。

その葛藤の結果「父の謝罪碑を撤去する」ことを決意したのだという。そのことが『父の謝罪碑を撤去します』に書いてある。

この息子さんのような正義感と父親の残した虚偽の間で苦しむ姿こそが、真の気骨のある立派な人物だ。

河野太郎外相には、父親の出した「河野談話」が、どれだけ罪深いものであるかを反省し、それを撤廃する気概はないのだろうか。

日本の多くのメディアが報道している日中外相会談の詳細な会話を知るにつけ、河野外相に一抹の不安と失望を味わった日本人は、きっと、私一人ではないだろう。

日本が戦争を起こした罪自体は問われたとしても、私たちは子孫に虚偽の罪を残し続けていくべきではない。それは誰にとっても不幸なことだ。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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