失業率とシンクロする自殺率の推移

<戦後日本の失業率と自殺率の推移を見てみると、両方の数値には強い相関関係がある。失業率が1%上昇することで国民が受ける「痛み」は決して小さくない>

フランスの社会学者、オーギュスト・コントは「予見せんがために見る(voir pour prevoir)」と言った。過去のトレンドから未来を予測するのは、データ分析の重要な仕事だ。

歴史を振り返ると、社会の経済動向と自殺は強く相関している。不況期では自殺率は上がり、好況期はその反対だ。完全失業率と自殺率の時系列カーブを描くと、両者は恐ろしいほど同調している。失業率が上がれば自殺率も上がる。こうした共変関係がクリアーだ。

あらゆる財やサービスが貨幣を通じて交換される社会では、失業によって収入源は断たれることは大きな痛手となる。生活苦に陥り、最悪の場合、自らを殺めることにもつながりかねない。影響は当人にとどまらない。稼ぎ手が失業状態にあることは、当人に扶養されている家族の生活も脅かす。

失業率とは、働く意欲のある労働力人口のうち、職につけていない者(完全失業者)の割合をいう。総務省の『労働力調査』に計算済みの数値が出ている。自殺率は人口10万人あたりの自殺者数で、厚労省の『人口動態統計』から長期推移を知ることができる。<図1>は、両者の長期推移のグラフだ。データが得られる1953〜2017年のカーブが描かれている。



一見して分かるとおり、失業率と自殺率のカーブは形状がよく似ている。高度経済成長期に下がり、低成長期に上がり、バブル期に下がり、90年代以降の不況期に上がり、最近の好況期では下がっている。相関係数(+1に近ければ近いほど強い相関がある)は+0.7024にもなる。

この65年間の経験的事実(データ)をもとに、失業率(X)と自殺率(Y)の関連を定式化してみる。多項式にすれば精度はやや上がるが、話を分かりやすくするために単純な一次式を用いる。

■Y=1.949X+14.345

この式の係数から、失業率(X)が1%上がると、自殺率(Y)は1.949上がると推計できる。人口を1億2000万人と仮定すると、実数でみて年間の自殺者が2339人増える計算になる。2017年の労働力人口は約6720万人なので、このうちの1%、つまり67万人の雇用がなくなると2339人の自殺者が出る恐れがあるということになる。



過去65年間のデータからラフなやり方で打ち立てた定式化だが、失業率1%の重みが伝わってくる。今世紀初頭の政権のフレーズは「聖域なき構造改革」「痛みを伴う改革」といったものだったが、国民が被る「痛み」は決して小さくない。

好況・人手不足の影響で失業率は低下の傾向にあるが、AIの台頭により人間の雇用が脅かされる事態も考えられる。しかしこういう時代では、無理に働くこともないのではないか。AIは人間の仕事を奪うハゲタカではなく、人間を労働から解放してくれる救世主(メシア)だ。「お金は労働の対価としてもらうもの」「働かざる者食うべからず」といった価値観を払拭し、ベーシック・インカムを導入するという考え方もある。考え方の転換がされなければ、失業率は上昇し(AI失業)、自殺者が激増する恐れも出てくる。

為政者には、生活者としての国民の「痛み」を理解して政治にあたらなければならない。

<資料:総務省『労働力調査』、
    厚労省『人口動態統計』>


舞田敏彦(教育社会学者)


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