長引く米国の政府閉鎖、景気への悪影響が懸念されはじめた

米国の政府閉鎖が、史上最長を更新している。当初はそれほど心配されていなかった経済への悪影響にも、さすがに警戒感が高まってきた。気掛かりなのは、閉鎖の原因となった「国境の壁」をめぐるドナルド・トランプ大統領と米議会との対立が、夏以降に必要となる「債務上限の引き上げ」等、より重大な局面での混乱を予感させることだ。

当初はそれほど心配されていなかった

2018年12月22日に始まった米政府機関の一部閉鎖が、ついに一カ月を超えた。これまで最長だった1995〜96年の21日間が過ぎ、未体験の領域に踏み込むにつれて、政府閉鎖が経済に与える悪影響が警戒され始めた。

3つの理由から、政府閉鎖が始まった段階では、それほど経済への悪影響は心配されていなかった。

第1に、政府機関の閉鎖は、予算が成立するまでの一時的な出来事である。もちろん、政府による支出が減る閉鎖期間中には、経済成長率に下押し圧力が働く。しかし、閉鎖期間中に使われなかった予算が、そのままなくなってしまうわけではない。政府閉鎖が解除された暁には、それまで使われていなかった予算が一気に使われ始める。通年での予算額が変わらないとすれば、閉鎖期間中に押し下げられていた成長率は、閉鎖解除後に同じだけ押し上げられるはずである。

第2に、政府閉鎖の対象は、一部の政府機関に限定されている。既に6つの省では予算が成立しており、閉鎖対象は9つの省に限られる。規模が大きい国防総省の予算が成立していることもあり、予算規模に換算した場合には、閉鎖対象は全体の2〜3割に止まる。政府閉鎖の長さが同じだとすれば、全ての省の予算が成立しなかった2013年の政府閉鎖等と比較して、それだけ経済への影響は小さくなる計算だ。

第3に、これまでの経験でも、政府閉鎖が著しく景気を悪化させた例はない。一時的に成長率は低下しても、景気拡大の方向性は変わらなかった。これまで最長だった1995〜96年の政府閉鎖は、米国経済が絶好調だった時期と重なる。16日間続いた2013年の政府閉鎖でも、景気の拡大は揺らがなかった。

揺らぎ始めた楽観論

ところが、閉鎖期間の長期化によって、こうした楽観的な見方が揺らぎ始めた。
 
いくら一時的といっても、閉鎖期間が長引けば、蓄積される悪影響は大きくなる。トランプ政権は、今回の政府閉鎖が四半期の成長率を押し下げる度合いを、一週間ごとに0.1%強と試算している。短期間で済めばさほどでもないが、これが一カ月続けば、成長率は0.5%程度押し下げられる。仮に3月末まで続けば、第1四半期の成長率が1.5%押し下げられる計算だ。



また、一部の閉鎖に止まるとはいっても、その期間が長引くのであれば、政府による一時的な支出の減少だけでなく、間接的な影響の広がりが軽視できなくなる。

例えば、個人消費への影響である。今は前年度予算の残りで続けられている低所得者への補助金の支給が滞れば、個人消費への打撃となる。閉鎖期間中の政府職員の給与は閉鎖解除後に補てんされる予定だが、政府機関の清掃等を担当する下請け業者の従業員については、閉鎖で失われた給与を取り戻す手立てがない。1月末から始まる予定の確定申告に伴う税還付が、順調に実施されるかどうかも不透明だ。

ビジネスへの影響も出始めた。証券取引委員会(SEC)が閉鎖対象であるために、企業の新規株式公開(IPO)の手続きが滞っている。食品医薬局(FDA)の予算が枯渇するなかで、新たな処方薬の承認も遅れそうな状況だ。政府職員の出張減等を懸念するデルタ航空のように、収益悪化の可能性を明らかにする企業も出てきた。

さらに、タイミングも問題である。過去の政府閉鎖が景気の拡大を阻害しなかったのは、そもそもの景気が強かったことに助けられた面がある。これに対して現在は、中国経済の減速や貿易摩擦の深刻化が懸念される等、政府閉鎖以外の不安材料が山積している。仮に政府閉鎖だけであれば耐えられたとしても、他の要因が重なった際の試練は大きくなる。

税還付を担当する職員も休み

トランプ政権は、予算が成立していない省の職員を無給で働くよう呼び戻す等、業務遅延の悪影響の顕在化を抑える手立てを講じている。しかし、税還付を担当する内国歳入庁(IRS)では、無給での出勤を拒否する職員が多いと伝えられる等、こうした対応には限界が露呈している。

注意する必要があるのは、消費者や企業への心理的な影響である。実際の悪影響が生じていない段階でも、今後の見通しに対する警戒感が高まれば、消費者や企業の活動は萎縮する。個人消費や企業の投資が冷え込むことで、政府閉鎖の悪影響が増幅されかねない。ミシガン大学が発表した1月の消費者信頼感指数(速報値)は前月から急低下しており、気になる兆候が確認できる。

心理的な影響という点では、今回の政府閉鎖が、こらから訪れるさらなる混乱の予兆と受け止められる可能性が気掛かりだ。これから夏にかけて、米国には対処しなければならない重い課題が待ち受けている。政府閉鎖を招いた大統領と議会の対立が再現された場合には、米国経済に深刻な影響が及びかねない。



最大の懸念は、債務上限の引き上げである。米国では、今年の夏頃までに、債務上限を引き上げる必要がある。基本的には一時的な出来事である政府閉鎖に比べて、米国の債務不履行(デフォルト)にもつながり得る債務上限の問題は、経済にとって格段に深刻な課題である。実際に、債務上限の引き上げが難航した2011年には、米国債が格下げとなり、世界の株式市場に衝撃を与えている。

9月末までには、10月から始まる2020年度の予算の審議を終える必要もある。金融危機後の財政再建の名残で、2020年度の予算には厳しい歳出上限が設けられている。立法によって歳出上限を引き上げなければ、米国は「財政の崖」と呼ばれる歳出の急減に追い込まれ、景気には強い逆風となる。
 
政府閉鎖の長期化は、こうした夏以降の正念場に、米国の政治が対応しきれないリスクを意識させそうだ。格付け会社大手のフィッチは、今回の政府閉鎖が米国債の格付けに与える影響は少ないとしつつも、その長期化が政策決定における機能不全の深刻化を示唆する場合には、米国債に格下げ圧力がかかる可能性を警告している。

消費者や企業の心理まで考えれば、政府機関の閉鎖が長引いた場合の悪影響は、時間の経過に連れて加速度的に大きくなりかねない。米国では、3月末まで閉鎖が続いた場合に、第1四半期の成長率がマイナス圏に落ち込む可能性が囁かれ始めている。 

安井明彦1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。


安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)


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