人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』が問う、国と正義と人の倫理

<予期せぬ展開にファンは何を学べばいいのか>

筆者の娘は腹を立て、夫はあきれ果てた。人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の終わり方があまりに意外で、あまりに残酷だったからだ(まだ見ていない方にはネタバレになってしまうが、悪しからず)。

善人であるはずの女王デナーリスが、事もあろうにライバルの都を冷酷に焼き尽くし、皆殺しにするなんて(最終シーズン全6話中の第5話)、信じられない。許せない。

わが家だけではない。ネット空間にはたちまち落胆の声があふれ返り、彼女の真意や動機についての臆測が飛び交った。悪人の本性が現れたのだ、いや当然の報いだ、いや制作陣が血迷ったのだ......。制作局HBOには、脚本を変えて最終シーズンを撮り直せという130万人超の署名が集まったとか。

こんなにも反響が大きいのはなぜか。デナーリスの動機がどうのこうのという以上に、この覇権をめぐるゲームの全体が、現代を生きる私たち自身の争いに重なって見えるからだ。

『ゲーム・オブ・スローンズ』はテレビドラマの傑作だ。中世のイギリスを思わせる舞台に圧倒的な映像美、巧みな人物造形、意外な展開の連続。超のつく壮大なスケールで、善人も悪人も奥が深い。だからこそ私たちは8年も飽きずに見てきた。

これぞ物語の醍醐味だ。一回ごとに新しい発見があり、そのたびに私たちは考えさせられ、それを誰かに話したくなってしまう。そんな力を秘めた物語は偉大な宗教の聖典に似ている。聖典が説く善悪や人の弱さ、犠牲や贖罪、欲望とその放棄などの物語を通じて私たちは学び、その学びを共有するコミュニティーを形成する。偉大なドラマにも、そういう力がある。

昔の人が寓話や神話の意味を読み解こうとしたように、私たちはこのドラマの思わぬ展開の意味を探ろうとする。デナーリスが宿敵の城を焼き払ったのはなぜかと考え、ネット上で熱い議論を戦わせる。

なぜだろう。誰もがデナーリスの選択を目の当りにして、自分ならどうするだろうと考えてしまうからだ。



ドラゴン攻撃は是か非か

善人デナーリスと悪人デナーリスの大きなギャップを、私たちはどう納得すればいいのか。ヒロインの豹変は筆者の娘の夢を曇らせ、数多くのファンを激怒させた。

もちろん、デナーリスの変身を予期していたファンもいる。暴虐と圧政に立ち向かうフェミニズムの星だった彼女が、シーズンごとに権力欲を強めていくのを敏感に察知していた人たちだ。うら若い乙女の頃にも、正義へのいちずな思いから非道な行為に手を染めたことがあった。デナーリスは最後の最後で極悪人となってしまったが、それまでの高貴で優しかった姿を忘れない人もいる。

デナーリスについて考えるのは、私たち自身を考えることでもある。ドラゴンの猛烈な炎で人々を焼き尽くす行為は正しかったのか? 私たちにはドラゴンはいない。しかし1日に何度でも人類を壊滅させるに足る大量破壊兵器がある。ドローンを飛ばして人を殺してもいる。

今のアメリカ大統領は1つの戦争を終わらせて、新たに別の戦争を始めようとしているらしい。私たちはそれを許すのか、非難するのか?

デナーリスの焦土作戦の是非を論じることを通じて、私たちはアメリカ政府の軍事政策を支持するか反対するかの答えを見つけようとする。デナーリスの倫理を問うことは、きっと私たち自身の倫理観を研ぎ澄ますことにも通じる。

よくできた物語は、私たちを楽しませるだけでなく、私たちの目を開かせる。『ゲーム・オブ・スローンズ』よ、このまま終わらないでおくれ。

<本誌2019年6月11日号掲載>


※6月25日号(6月18日発売)は「弾圧中国の限界」特集。ウイグルから香港、そして台湾へ――。強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴とは何か。香港デモと中国の限界に迫る。



ダイアン・ウィンストン(ジャーナリスト)


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