犬連れ参拝客に人気の神社が「ペット連れ禁止」の苦渋の決断

<神様の使いとして狼を祀り、「お犬さま」などと親しまれていることから、犬連れの参拝客に人気がある埼玉県秩父市の三峯(みつみね)神社が、7月1日より、ペット連れでの境内への立ち入りを禁止する。一部の参拝客のマナー違反が続いたための苦渋の決断だったようだ。正式に禁止となる前に、長年ペット取材を重ねている筆者が、犬のしつけのインストラクターらと共に同神社を訪問し、公共の場での飼い主の心構え・マナーを再考した>

「黙認」から禁止へ

三峯神社は、6月4日付で、ホームページ上で次の告知を行った。


・ペット連れでのご参拝に関して

当社では、長年にわたり境内(社殿等の建物以外)へのペット同伴を黙認して参りました。
特に神様の使いとして狼を祀り、古くから「お犬さま・山犬・御眷属様」と親しまれており、殊更身近な存在で、神社としても大切に考えております。

しかしながら今般、一部の方の心無い振舞いにより信仰の場としての神社の尊厳維持が困難になりかねない事態が起き、熟慮を重ねた結果、誠に遺憾ながら令和元年7月1日より、ペット連れでの境内立ち入りをお控えいただくことを決定させていただきました。

ここで注意しておきたいのは、「これまで許可されていたのに突然禁止になった」というニュアンスではなく、「黙認していた神社が、正式に禁止を表明した」と受け止めた方が正確であろうということだ。告知文には、続きがある。

ご参拝を楽しみにされていた皆様方には大変申し訳なく、またペットを連れてお越しの方の殆が周囲に気を配られ、穏やかに境内でお過ごしいただいていたこともあり、神社としても断腸の思いであります。

歴史ある神社境内の信仰環境護持・清浄の維持は神社職員にとり重要な務めゆえ、何卒ご理解のほどお願い申し上げます。

※盲導犬・聴導犬・介助犬等の補助犬につきましては今までどおりお入りいただけます

筆者は犬を飼っており、ペット雑誌での写真撮影と記事執筆、入店拒否問題を含むアイメイト(盲導犬)の撮影・取材を長年重ねている。同神社は、上記の声明以上のコメントはしないとしているが、筆者の取材経験上、糞尿の処理を怠るなどのマナー違反が積み重なった結果であることは、容易に察することができる。

三峯神社参道手前にあった告知看板

犬と共に参拝する喜びも・・・

長年の三峯神社ファンだった藤岡さんは、一部の飼い主のマナー違反を残念に思っている

三峯神社へは、かれこれ10年以上前に、当時飼っていた老犬と一緒に参拝したことがある。今回は、7月1日を迎える前に再訪しておこうと、犬のしつけのインストラクターの川原志津香さんと、長年の三峯神社ファンである藤岡亮さんという友人2人と現地で待ち合わせて参拝することにした。川原さんたちを誘ったのは、全国の観光地や公共の場で起きているマナー違反の問題について、あらためて共に考えたいという思いもあったからだ。

藤岡さんは、生涯の伴侶として犬を選んだ筋金入りの愛犬家で、日本では珍しい大型犬種、ベルジアン・シェパード・ドッグ・グローネンダールと2人暮らし。大型のワンボックスカーで日本全国を犬連れで旅しており、三峯神社もしばしば訪れている。

「多い時は年に3、4回、少なくとも1回は来ていました。森の中を歩く雰囲気が好きなんです」と藤岡さん。「お犬さま」の愛称から、僕はペットフレンドリーな神社というイメージを持っていたが、藤岡さんによれば実情は少し違うようだ。「犬OKな神社でも温度差があって、犬好きな神主さんがいるような神社では、職員の人がフレンドリーに声をかけてくれることもあります。ここは、そういう意味ではウェルカムと言うより、『空気のような扱い』ですね」

「ペットOK」ということではなく、声明文にある通り、まさにグレーな「黙認状態」が続いてきたということなのだろう。僕自身も間違ったイメージを持っていたように、その点の履き違えも、少なからず犬連れ参拝客の間にあったのではないだろうか。「むしろ歓迎されているのだから、何をしてもいい」という深層心理が、一部の飼い主にあったことは否定できない。「犬連れがすごく多いので、やっぱりところどころにウンチが落ちていたり、小型犬をロングリードで歩かせていたり・・・。あるいは、仮に祝詞を上げている時に犬がキャンキャン吠えていたら台無しですしね」と、藤岡さんは残念がる。



参拝客の複雑な思い

境内に鎮座する「お犬さま」たち

正式に禁止になる7月に入る前に参拝しておこうという人は他にも多いようで、この日は平日にも関わらず、既に駐車場周辺に多くの犬連れ客がいた。

「入れなくなるというので、去年に続いて家族で来ました。参拝してからすごくいいことが続いたので、お礼参りを兼ねて。それだけに犬と一緒に来られなくなるのはかなりショックです」と語るのは、家族4人で神奈川県から来た女性。愛犬のトイ・プードルには、前回同様マナーベルト(犬のおむつ)をつけてきた。今後再訪する場合は、家族内で犬と一緒に境内の外で待つ組と参拝する組に分かれて、交代で参拝するようにしたいとのことだ。

犬を飼っているが、あえて連れてこなかったという人にも出会った。大型犬のラブラドール・レトリーバーと暮らすさいたま市から来た45歳の男性は、「そういえば、(神社などに)一緒に来たいと思ったことはなかったですね。確かにこの場に一緒に犬がいればかわいいと思うし、犬も散歩の延長で楽しいかもしれませんが・・・。うちは大きいから特になんですけど、混んでいたりすると周りの人に迷惑をかけてしまうのは嫌ですね。(犬が)怖いという人もいるじゃないですか。もともとそういう感じなので、ペット禁止には賛成でも反対でもないですが、やっぱりマナーを守れない人は連れてきてはいけないと思います」と話していた。

他にも何組か犬連れの人と言葉を交わす機会があったが、いずれもペット禁止措置を報道などで知り、7月1日を迎える前に、名残惜しみつつ来たという飼い主だった。そのうちの一人の地元の老婦人は、「昔は、境内で犬を見ることはなかったと思うよ。(参拝客が犬を連れてくるようになったのは)最近になって飼う人が増えてからじゃないですか?ワンちゃんを留守番させるわけにもいかない人も多いしね」と話す。

戌(いぬ)年だった昨年は、「お犬さま」の三峯神社は多くのメディアに取り上げられた。パワースポットブームもあって、参拝客の絶対数が近年増加傾向にあったのは間違いなさそうだ。犬連れ客のマナーの問題も、それに伴い黙認できる範囲を超えたのであろう。

皆が気持ちよく参道を歩くために

他の犬とすれ違う際には、自分の犬を待機させて不測の事態を回避する配慮も必要

1時間ほど遅れて犬のしつけのインストラクターの川原さんが到着。僕らも、川原さんの愛犬のベルジアン・シェパード・ドッグ・タービュレン『ヒューゴ』、藤岡さんとグローネンダールの『風蓮』と "最後の犬連れ参拝"に向かった。川原さんは、子供の頃に南アフリカやペット先進国と言われるドイツ(旧東ドイツ)で犬を飼い、近年もアメリカ在住経験がある国際派のインストラクターだ。僕は、そんな犬連れ旅のエキスパートでしつけのプロでもある川原さんが、どういうふうに参道を歩き、参拝するのか注目した。

犬の鳴き声などに配慮が必要な場所では、犬同士がすれ違う際には特に注意が必要だ。「前から犬が来た時は、様子を見て、吠えてきたりしそうな犬だったら、立ち止まって自分が通路の真ん中側になるように(真横に犬を)待機させて、『お先にどうぞ』という形で道を譲ります。相手の動きが止まっていて目線が飼い主に行っていれば(犬を見て興奮するような犬でも)お互いが落ち着きやすいからです」と川原さん。「あっちが吠えるから悪いのよ、ではなく、たとえ自分の犬がよくしつけられていたとしても、皆が気持ちよく歩けるように、相手が吠えるような状況を作らないのもマナーだと思います」

また、川原さんたちは、それぞれの犬を鳥居や門の前に座らせ、記念撮影をした。「真ん中で正面から撮りたいところではありますが、周囲に誰もいないような状況でない限りは、他の参拝客の妨げにならないよう、ちょっと端に寄って斜めから撮るくらいで妥協します」

他の参拝客の邪魔にならない配慮も必要。記念撮影は少し端に寄って



「させないの工夫」と失敗した時の「バックアッププラン」

今回の訪問で唯一見かけた残念なシーン

神社の声明にもあるように、この日も大半の人がマナーをしっかり守っているように見えた。ただ、残念なことに、境内の立派な杉の木にマーキングさせているのを一度だけ見てしまった。こうした糞尿の問題は禁止措置の核心に当たるので、川原さんに具体的に解説してもらおう。

「マーキングをしないようにしつけるのは、去勢をしていなければ難しいです。ですので、一緒に出歩くなら去勢(メスの場合は避妊。マーキング対策だけでなく、健康管理面などからも多くのしつけの専門家や獣医は勧めている)が大前提になります。それでも、犬は放っておいたらマーキングをしたがりますから、飼い主がそれに付き合わないことが大切です。しつけるというより、飼い主の歩き方の問題。『あっちの臭いをかぐの?』って一緒に行っちゃたら、そこでマーキングするのは分かりきっていますよね?なので、付き合わずにまっすぐ歩く。それで犬が諦めたら、褒めてあげます」

排泄の方のおしっこ・うんちについては、現地に着く前に差し支えのない場所でさせておくのが望ましい。「それでも生理現象ですから、万が一しちゃったら、流せるような地面ならば水で流す。アスファルトなど水を流しても単に薄まって広がってしまうような場所なら、トイレシーツでなるべく尿を吸収して、水で流して、さらにもう一度吸収するくらいのことはしてほしいと思います」

なるべく外出先で周囲に迷惑をかけないようするためには、犬がよくしつけられているのが理想だ。とはいえ、「しつけのプロではないから、そんなに完璧にはできない」という飼い主が大半であろう。

「外に一緒に連れていくからには、自分の子供でも犬でも、最低限のお出かけマナーを身に着けていたほうが、自分も周りの人も気持ちよく過ごせると思います。でも、ロボットではないから完璧にはできませんし、不測の事態もあるのが当然です。絶対に完璧に仕上げてからお出かけしましょう、ということではなくて、できるだけお家で練習して、お出かけにチャレンジするくらいの気持ちがあれば良いのではないでしょうか」と川原さん。

そのうえで、「ワーストケース・シナリオではありませんが、先ほどのトイレのケースのように、不測の事態を予想して、『こうなってしまったらこうする』というバックアッププランも用意しておいてほしいと思います」と語る。

境内などに入る前に、トイレシーツの上で排泄を済ませておくのも有効な方法だ

「犬を飼っている人は皆同じ船に乗っている」

国際経験豊富な川原さんも指摘することだが、海外の宗教施設は、ほぼ例外なくペットの入場は禁止されている。一方、日本の神社仏閣、特に神社は、これまでの三峯神社のように、入場が黙認されていたり、ペットのお祓いまでしてくれるペットフレンドリーな神社も散見される。神道の根幹にある自然信仰も関係していると思うが、「境内」の捉え方の問題もありそうだ。

「ドイツでは、ほとんどの公共の場所に犬が入れますが、食べ物を扱うスーパーやパン屋さん、そして教会は入れません。神聖な場所であると同時に建屋の中だから、それは受け入れやすいと思います。でも、神社の境内って屋外ですよね。外の散歩の延長という意識が飼い主の側にあるような気がします」と川原さん。神社側から見れば、鳥居の内側の「境内」は、教会の建物の中と同列である。神社の存在が身近すぎるが故に、我々日本人はそこを理解しきれていないのかもしれない。

「禁止されていないから、入場OKだから、マナー違反も許される」と考えるのは言語道断だが、逆に杓子定規に「とにかく犬はダメ」と拒絶するのも、三重県の商店街で最近話題になった、公道に飛び出した看板を実力行使で撤去する「正論おじさん」の騒動ではないが、生きにくい世の中を自ら作ることにつながりかねない。

「どういうふうにしたら許されるか、という話ではありません。一人ひとりが歩み寄ることで、『ああやってマナーを守ってくれているのだったら、ワンちゃんが一緒に出てきてもいいな』と、気持ちよく受け入れてくれるような社会になってほしいと思います。ここで起きたことは、自分がやったことが返ってきて、自分の権利を狭めてしまったようなもの。犬を飼っている人は皆で同じ船に乗っているようなものだということ、そして、自分たちが悪いことをしたらその影響は自分に返ってくるということを再認識したいですね」(川原さん)

川原さんと愛犬のヒューゴ


内村コースケ


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