米移民当局はメキシコの麻薬カルテルに難民申請者を引き渡している?

<トランプ政権の移民政策が、合法的な移住を阻止し、難民申請のプロセスそのものを損なっている、と支援団体は批判する>

アメリカに難民申請を行った後にメキシコに送還された男性とその子どもが、わずか数時間後にメキシコのカルテル(麻薬組織)に誘拐された。この男性は、ドナルド・トランプ政権の移民政策の下、難民申請の認定が下りるまで移民をメキシコで待機させる「移民保護手続き」によってメキシコに送り返された。

7月半ば以降、この待機措置によって4万2000人の難民申請者がメキシコに送還されている。身代金を払って解放された男性は、ニュースサイトのバイスに対し、腐敗したメキシコの入国管理官と冷酷な米国境警備局の職員たちが、移民をカルテルに引き渡していると語った。

バイスの報道によれば、デービッド(仮名)親子はメキシコに送り返されたわずか数時間後、国境からわずか数キロの地点でトラックに押し込まれて誘拐された。送還後は裁判所での聴聞を待つ間、シェルター(保護施設)に滞在できると言われていたのに、2人を待ち構えていたのはカルテルのコヨーテ(人身売買業者)たちだった。

トランプ政権の「移民保護手続き」の下では、難民申請の審査を待つ移民たちはメキシコに送り返される。メキシコの全国人権委員会によれば、その待機中にカルテルに狙われて誘拐されることが多いという。

「シェルターに連れて行くと言われたのに」

デービッドは、メキシコ北部ヌエボラレドのカルテルが女性や子どもたちを誘拐し、最低賃金で働く貧しい親族から何千ドルもの身代金を巻き上げていると語った。

誘拐されるわずか数時間前、デービッドは米国境警備局の職員たちから「シェルターに連れて行くと言われた」とバイスに語った。「彼らは嘘をついた」

ドランプ政権の指示の下、メキシコ政府は難民申請者たちに2つの選択肢を提示する。無料バスでメキシコ南部のグアテマラとの国境地帯の町タパチュラ(米国境から約30時間)に行くか、メキシコで最も危険な地域のひとつである北部ヌエボラレドにとどまるか。ヌエボラレドは、身代金目的の誘拐が多発していることで知られる。

「移民当局の職員たちが、僕らをカルテルに引き渡した」とデービッドは語った。「僕らが殺されても構わないんだ」

人権団体ヒューマンライツ・ファーストのエレノア・エーサー難民保護担当専務理事は、「米国土安全保障省が実質的に、移民や難民を誘拐犯などに引き渡しているのは明らかだ」と指摘する。メキシコの国境地域では「警察に助けを求めても無駄だ」と彼女は言う。



米税関・国境取締局のマーク・モーガン局長代行は、祖国での暴力から逃れてアメリカに難民申請をした移民をメキシコで待機させるこの措置を擁護する。モーガンら国境当局は、トランプ方式の待機措置の導入後、国境地帯の逮捕者が8月までの4カ月で6万6000人減ったと主張している。

「待機措置には、アメリカの人権法の濫用や嘘の難民申請を阻止する効果がある」と、モーガンは9月9日にホワイトハウスで行った記者会見で語った。

だが移民政策に抗議する活動家や専門家の意見は異なる。彼らは、トランプ政権の移民政策が合法的な移住を阻止し、難民申請のプロセスそのものを損なっていると批判する。

テキサス大学エルパソ校のジェレミー・スラック教授(移住問題を研究)は、「待機措置は国境の壁よりはるかに大きな威力を発揮している」と語った。「これが事実上、合法的な移住を妨げているからだ。それこそが、トランプの狙いだ」

問題を見えないところに追いやる格好の手段

バイスによれば、デービッド親子は最終的に、家族が1万5000ドルを超える身代金を支払って解放された。難民申請の審査待ちであることを証明する書類は全てカルテルに盗まれたため、デービッドは今後アメリカで行われる裁判所の聴聞には出席できなくなってしまったという。

「待機措置によって、トランプは移民が直面している人道的な大惨事を見えないところに追いやることができる」と、アメリカ移民評議会の政策アナリスト、アーロン・ライリヒンメルニックはバイスに語った。「アメリカは難民申請者をメキシコに送り返し、『死なないといいね。バイバイ』と言っているのだ」

トランプは5月にフロリダ州で開いた、20年の大統領選に向けた選挙集会で、支持者にヒスパニック系の「侵略」について警告。この中で、難民希望者の入国を阻止するには彼らを銃で撃てばいいとジョークを飛ばした。「彼らはアメリカの国境地帯で、グアテマラやホンジュラス、エルサルバドルの旗を掲げようとしている」とトランプは言った。「だがそれはやめておいた方がいい」

(翻訳:森美歩)

※9月24日号(9月18日発売)は、「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集。終わりなき争いを続ける日本と韓国――。コロンビア大学のキャロル・グラック教授(歴史学)が過去を政治の道具にする「記憶の政治」の愚を論じ、日本で生まれ育った元「朝鮮」籍の映画監督、ヤン ヨンヒは「私にとって韓国は長年『最も遠い国』だった」と題するルポを寄稿。泥沼の関係に陥った本当の原因とその「出口」を考える特集です。


ベンジャミン・フィアナウ


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