広がるか「兼業・副業」、優秀な人材獲得の切り札にも

広がるか「兼業・副業」、優秀な人材獲得の切り札にも

 政府が働き方改革実行計画を策定したのをきっかけに、本業以外に仕事を持つ「兼業・副業」が注目されている。兼業・副業は収入が増え、経済の好転につながるが、働き方改革で解消を図る「働き過ぎ」も懸念される。実践する人たちを取材し、両立のノウハウと兼業によって本業も活性化する可能性を探った。

 本業との両立について、サイボウズ社長室地域クラウドプロデューサーの永岡恵美子さんは、忙しいことはもちろんだが、「困ることはない」と言い切る。

 月に2日、第一勧業信用組合で創業支援室アドバイザーとして働く。起業家支援施設などでの経験を買われ、かつての上司から誘われたことが“副業”のきっかけだった。

 具体的には、信組から出席すべき会議やイベントなどの日程を聞き、その日にサイボウズを休むように調整する。サイボウズは全員の予定を調整するグループウエアといったツールが充実している上、「上の人の都合を忖度(そんたく)する文化がないため調整しやすい」(永岡さん)。

 ソニーで新商品の企画に携わる正能茉優(しょうのう・まゆ)さんは、自分で働き方のバランスを取るため、「人生配分表」を作成している。

 正能さんは、学生時代に“カワイイ”を切り口に地方を活性化するハピキラFACTORYを起業した。ハピキラの仕事は、ソニー出社前と休日が中心だ。「両方の仕事が楽しく、放っておくとずっとやってしまう。でも、祖母が体調を崩した時、これでは後悔すると思った」(正能さん)。

 正能さんの人生配分表は人生の何割を何に当てるかを決めて、予定の種類によって色を変え、グーグルカレンダーに書き込む。カレンダーを見ると、大体の割合がわかる。

 現在の配分はソニーとハピキラが3割ずつ、その他が4割。だが、ソニーの新製品イベント前など、忙しさが集中する時もある。そんな時は「ゆるめに運用するのがこつ」という。カレンダーの色分けで大枠を把握し、何かに偏る時は次の月などに調整する。

人とのつながり、広がる可能性
 2人が兼業・副業の利点の一つとして挙げるのは「人とのつながり」。正能さんは「“ハピキラの正能”は意思決定側の人と会えて、ソニーの仕事にも生かせる」と話す。

 本業では接点のなかった人と兼業でつながり、本業での協業やコラボレーションの可能性を広げられる。永岡さんも「業界の違う人や経営者の方と直接会うことは経験になる」と話す。

 また、永岡さんは「副業は、自分のリソースを有効活用できる」と話す。永岡さんは信組の顧客から、情報システムや働き方改革の相談を受けることもある。

 働き方改革の専門家でなくても、サイボウズで普通に実践する内容自体が、他社には新鮮な情報になる。永岡さんは「『自分にこんなことができるんだ』と気づくことがある。常に自分が提供できることを探している」という。

 政府は兼業・副業によって、イノベーション促進や人材確保、可処分所得の増加、創業の推進などを狙っているが、その芽は確かにあるようだ。

 永岡さんと正能さんは多忙ながら、共通して兼業・副業を自然体で楽しんでいるようだ。だが、現時点で全ての人が2人と同じように働くことは難しいだろう。

 第一に企業風土の問題。サイボウズとソニーともに兼業・副業を許可し、現場も受け入れている。「ソニーは現場レベルで、個々の活動や個性を認めて、(お互い)がんばろうねという雰囲気がある」(正能さん)。

 サイボウズでは、青野慶久社長が率先して、育児休暇や時短勤務を実践。同じフロアで働く社員に多様な働き方を認め合う気持ちが広がっていた。「周りの目が気になることは、社内にはない」(永岡さん)。

 働く人自身が予定や自分の疲れをコントロールすることも必要だ。例えば正能さんは人生配分表で自己管理する。永岡さんは毎朝5時に起き、始業の1時間前に会社の近くでコーヒーを飲みながらボーっと過ごす。

 気分転換したり、アイデアを思いついたりするという。長時間労働は避けるべきだが、時間短縮だけに固執せず、自分に合うやり方を見つけることが働きやすさにつながる。

「スキルアップしたい」という意欲
 大企業の若手中堅社員の中にも、兼業や副業に興味を持つ人は少なくない。大企業の若手中堅社員の団体組織「One JAPAN」が、2017年に公表したウェブアンケートの結果によると、74・7%が兼業・副業に興味があると回答した。

 理由として、本業とは異なる業務やスキルアップしたいという意欲が、「副収入を得たい」「人脈を広げたい」を上回った。ただ、実際に兼業・副業をしている人は5・7%だった。

 一方、経済産業省の調査「働き方改革に関する企業の実態調査」によると、「現在認めている」「現在認めていないが、認めることを検討中」「現在認めていないが、(一定の懸念が解消されれば)認めることを検討する」と肯定的な企業が64・1%を占めた。
(文=梶原洵子)

【ファシリテーターのコメント】
 一部では、兼業・副業の容認が優秀な人材の獲得につながると考える企業も出てきた。ある企業の人事担当者は「会社に貢献してくれる人の活躍の障壁とならないことで、いい人材が集まりやすくなるのでは」と話す。学生時代に起業した人や、NPOなどで活動する人は、兼業・副業が許されている方が働きやすい。
 終身雇用が当たり前だった時代に比べ、若手社員のキャリア形成に関する考え方は1社に縛られない方向へ変わりつつある。人材戦略にも関係していきそうだ。
(日刊工業新聞第一産業部・梶原洵子)
日刊工業新聞 記者

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