業務用空調でプラスαの価値を―。さまざまな産業分野で製品単体の「モノ売り」から、周辺サービスを含めて課題解決を目指す「コト売り」への転換が加速する。オフィスや店舗で使われる業務用空調も「省エネルギー」「高効率」といった性能面だけでは差別化が難しくなってきた。機器本体の高い性能は前提の上で、どのような新しい付加価値を示せるかが勝負となる。空調メーカーそれぞれがビジネストレンドを先取りしようとしている。(取材=大阪・日下宗大)

技術成熟、付加価値で勝負

「省エネ性能だけではどうしても限界がある。それ以外の室内における“清潔”“健康”といった付加価値がいる」。ダイキン工業で空調営業本部長を務める船田聡常務執行役員は空調ビジネスが転換点にあると話す。空調の省エネ技術が成熟化しつつあるなか、業務用空調で国内トップシェアの約4割を握るダイキンは新しい訴求ポイントを模索している。

国内トップシェアの約4割を握るダイキンは新しい訴求ポイントを模索する(同社の業務用エアコンの室内機)

業務用空調の国内市場成長率は横ばい気味で、従来の機器単体の省エネ性能だけでは需要の取り込みが難しい。日本冷凍空調工業会がまとめた統計によると、「業務用エアコン」の2019―20年度の国内出荷台数は約85万台で推移すると見られる。年平均成長率は15―17年度実績が約3・4%に対し、17―20年度予測は約1・2%と、成長率が鈍化している。

ダイキンは今春に店舗・オフィス用エアコン「うるるとさららジアス」を発売する。家庭用で20年間展開してきた独自の無給水加湿技術を業務用に応用した。「最終的にはオフィスに納入したいが、まずはクリニックや幼稚園、保育所、介護施設など加湿の価値訴求ができる施設に拡販したい」(船田常務執行役員)。

空調機器単体から他の機器と合わせた新しい省エネの形も広がる。その一つがビルのエネルギー消費を大幅に減らす「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」システムだ。経済産業省・資源エネルギー庁の推計によると、一般的なオフィスビルの夏期ピーク時における用途別電力消費比率で空調は48%を占める。

業務用空調の国内シェア2位の三菱電機。同社は目下、ZEBシステム事業拡大を全社的に進めている。昇降機や、換気、照明、給湯などのビル関連機器を手がけていることから、空調をビル全体の省エネに向けたピースとして拡販する。「ビルでエネルギー消費が多いのは空調。当社がZEBに力を注ぐなか、カギとなる空調で最上位機種を提供して貢献する」と三菱電機冷熱システム製作所(和歌山市)の加賀邦彦所長は力を込める。

現場の課題解決に貢献

空調をビジネス現場の課題解決に役立てる動きもある。「コンビニのおでん売り場のにおいを空調に搭載した『ナノイーX』で抑制できる」と例を挙げるのは、パナソニックの石原力業務用空調ビジネスユニット長だ。パナソニックは脱臭や菌抑制などに効果がある微粒子イオンを大量発生できる技術「ナノイーX」を持つ。それを業務用空調へと横展開に取り組む。においに敏感な客への対応でコンビニに同技術搭載の空調の採用が進むほか、ホテルなど「狙っている領域で好評だ」(石原業務用空調ビジネスユニット長)という。

コンビニの冬の定番商品であるおでん。店内でのにおいの充満を空調で抑制

国内市場の大きな成長が見込めないなか、各社とも海外事業の拡大に向けた動きを加速する。パナソニックは空調や換気システムなどを手がける海外メーカーとの提携を進めている。最近では19年10月、香港の業務用空調メーカー、ウェルカム・エアーテックと開発や販売で提携に合意した。現状は業務用空調の海外売上高比率は55%。それを「中国、アジア、欧州を中心に長期的に70%まで引き上げたい」(同)。

ダイキンはアジア地域において業務用空調の据え付け工事や保守などの人材育成を強化し、サービス面での差別化を進める。インド、シンガポール、ベトナムの研修機能を拡大し、21年までに年間10万人を育成できる体制を目指す。三菱電機はシンガポールの販売会社に営業支援を強化する部署を新設した。ZEBの海外展開も視野に、空調以外の同社グループの製品をパッケージ提案できるようにする。

パナソニックの大型空調(吸収式冷凍機)

高度に対応

人工知能(AI)などのデジタル技術の活用も進む。三菱電機冷熱システム製作所の加賀所長は家庭用と比べて業務用は「使い方はダイナミックになる」とし、「当社独自のAI『マイサート』の活用を進める」方針だ。

増加傾向にある自然災害も空調需要に影響している。災害で停電が発生しても電気空調とは違い、ガス空調(GHP)はガスが供給されていれば駆動できる。パナソニックの石原業務用空調ビジネスユニット長は「例年と比べてGHPは10倍の引き合いを頂いている」という。

ダイキンの船田常務執行役員は「かつてモノがない時代はプロダクトアウト(作り手の論理)型で良かった。だが今はモノが余り、顧客に合った製品でないと受け入れられない」と強調する。特に業務用空調は設置環境や顧客のビジネス形態などに高度に対応しなければならない。ダイキンはIoT(モノのインターネット)を使い空調の点検業務を効率化するなど、深刻化する人手不足に対応したサービスも順次投入している。

「顧客が欲しいのは『空調機』ではない。“快適な環境”のほか、ビジネスであれば“集客が増える”“経費が減る”といったことだ。顧客の困りごとを知る努力は不可欠だ」(船田常務執行役員)とみる。