世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス(COVID−19)。自分にとって危険かどうか判断したいとき、どのような情報にあたってどう考えていけばよいでしょうか。東大医学部出身でベストセラー『統計学が最強の学問である』の著者である西内啓さんに、統計学の中でも初歩的な発想でどのように現状を理解し対処すればよいかを聞きました。(聞き手・平川透)

■有効な対策は手洗い

―まず、品不足が続くマスクの着用は新型コロナウイルスの感染予防には有効でしょうか?

「今のところよく分からない」というのが結論ですね。インフルエンザを対象にした研究では、手をきれいに洗ってマスクをすれば、普通の状態よりも効果があることが確かめられました。ただ、マスク装着のみで効果があるかどうかは誤差の範囲だったという結果です。

専門家以外の人にとっては、意外とマスクの扱いは難しいんですよ。マスクの扱い方に関してきちんと練習ができているような専門家であればマスクを付けた方がよいでしょう。一方で、それ以外の人にとっては、気休め程度にしかならないのではと思っています。日常生活の中ではどうしても汚い手でマスクに触れてしまいますよね。手洗いを心がけた方がよいでしょうね。

―予防に効果的な手洗いのポイントは?

石鹸で洗うことです。コロナウイルスやインフルエンザウイルスは、専門用語で言うと「エンベロープ」という脂質の膜を持っています。石鹸は、水に親しむ親水基と脂に親しむ疎水基を持つ成分でできており界面活性効果があります。エンベロープウイルスは真水と石鹸にくっつくと、界面活性効果で物理的に破壊されるわけです。

■一次情報を得る

―新型コロナウイルスが自分にとって危険かどうか判断したいとき、まずどのような情報にあたればよいのでしょうか?

大原則は、一次情報にあたることです。今回のようなことが起きたとき、我々が見るのはWHO(世界保健機関)のウェブサイトや、医学論文の投稿サイト。WHOのウェブサイトは日々更新されていて、各国の感染者数や死者数などの情報を出しています。まずこういった情報にあたることが大原則。

WHOが公表する日本の状況(3月23日にキャプチャ)

■ニュースやSNSで気をつけること

―新型コロナ関連のニュースやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に接するときの注意点はありますか?

ニュースを主な情報源として頼りにする場合も、まずは先ほど挙げたような一次情報を見た方がよいです。外国語が苦手だという人もグーグル翻訳にかけて見ることができます。

ニュースは情報を提供するまでに専門家ではない様々な人が介在する関係で、数値がまとめられたり、解釈を間違えたり、思想的な偏りがあったりするなどで、発信する内容にバイアスが生じます。

また、SNSの場合は投稿に出典がないものは、「全部デマかも」と疑うくらいでよいかもしれません。SNSの情報は玉石混合です。投稿者がどんな人かをいちいち調べるのは大変です。その人や情報が信用できるのかどうか掘って掘って調べて信頼できそうな情報だと思えたのに、結局フェイクだったということがありますよね。

サイエンスコミュニケーションは、情報をゆがめないことを大事にしています。「誰が、どのように研究した結果、何が分かったのか」をフォローアップできるようにしなければなりません。基本的に科学者が情報や考えを発信する場合は、出典をつけないといけないし、出典の内容から間違ったことを言ってしまったらそれはもう「科学者人生終わり」みたいなプレッシャーがあるわけですよ。自分がツイッターで新型コロナ関連の情報に言及する際にも、必要に応じて出典をつけるようにしています。

■得た情報を解釈する

―一次情報を元に、自分は危ないのかどうかをどのように考えればよいでしょうか?

今回の場合は、疫学の中でも基礎的なことを知ることが大事。例えば、「致死率」と「死亡率」という言葉の意味をきちんと区別しないといけないこともそうです。感染した場合にどれくらいのリスクで亡くなるかを致死率(致命率)と言います。一方、死亡率とは人口当たり何人が亡くなったのかという意味になります。

また、感染者が合計何人なのかだけではなくて、感染のメカニズムも知っておく必要があります。感染は、最初は指数関数的に増え徐々に収束します。つまり、現在の感染者数も情報として重要ですが、「新規感染者数」などの数字を見て、自分が今後感染する可能性が高いのかどうかを考えなくてはなりません。新規感染者数が昨日より増えているのか減っているのかを見なくてはならないです。

さらに、致死率や新規感染者数などの情報に加えて、考慮しないといけないことがあります。基本的に、すべての人に同じパーセンテージが当てはまらないということです。一つのパーセンテージが一様に当てはまる病気はほとんどありません。どういう条件の人がより気をつけないといけないのか、もしくは、どういう条件の人がより気をつけなくてよいのかという情報をきちんと追いかけないといけない。

例えば、中国の致死率が公表されていますが、そのパーセンテージは宝くじみたいにランダムに抽選しているような数字ではありません。各人の条件によって違うわけです。実際に、中国の文献を見ていくと、高齢者の方が致死率は高いし、持病のある人も高い。逆に、若い人は低い。また、湖北省(発症源とされる武漢市の所在地)の内と外では、パーセンテージに大きな違いがある。日本に住む自分たちは湖北省の外のパーセンテージに近いだろうと考えられます。

つまり、リスクの目安は、湖北省以外の中国の、自分と同じような年齢層が参考になります。

■自分だけではなく周りの人のリスクも考慮する

―数値を解釈するときのコツはありますか?

自分が危ないかどうかを考えるときには、パーセンテージを「何人に一人か」と置き換えた方が分かりやすいかもしれませんね。例えば学生時代を思い浮かべたとき、同級生の100人や1000人と自分を比べた場合、自分は他人よりアンラッキーだったかとか虚弱体質だったかなどはある程度想像できますよね。その上で例えば、最近多忙で免疫の機能が下がっているかもしれないという場合だったら要注意かもしれない。逆に、自分は丈夫な方だったということであれば、個人的には気にしない方がよいと思います。

また、一個人として「自分は危ないかどうか」という視点以外に、周囲の人のリスクを考慮することも大きなポイントだと思います。

例えば、小さな子供に関しては、武漢市ですら致死率が0%(3月16日時点)なので、おそらく自分の子供に関しては心配しなくてよいだろうと。逆に気にしないといけないのは持病のある人や高齢者。持病のある同僚を持つ人や、お年寄りを接客することが多い人などは、その人たちのリスクを考えた上で自分の行動を考えることが大事だと思います。

WHOのウェブサイト:https://www.who.int/

西内啓さんプロフィール
統計家。東京大学助教、ダナファーバーハーバード がん研究センター客員研究員を経て、株式会社データビークル代表取締役。Jリーグ アドバイザー。著書に『統計学が最強の学問である』。