移りゆく色や光に包まれ、飲み込まれ、浮遊するような感覚を体験できる、「チームラボ」の作品。日本のみならず、世界中で老若男女を虜にするさまざまな展示を手掛けてきた。ブランディングディレクターの工藤岳氏に、チームラボの目指すところ、その中での「色」の存在について伺った。(取材・昆梓紗)

まずは小さな「空間」から

―「チームラボ」にはさまざまな専門家が集まっていますね。
 僕たちは、集団的創造によって、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索している国際的な学際的集団です。アーティスト、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストから構成されています。「PACE」というニューヨークにあるギャラリーに所属しています。
 チームラボは、アートによって、自分と世界との関係と新たな認識を模索したいと思っています。
 人は、認識するために世界を切り分けて、境界のある独立したものとして捉えてしまう。その認識の境界、そして、自分と世界との間にある境界、時間の連続性に対する認知の境界などを超えることを模索しています。全ては、長い長い時の、境界のない連続性の上に危うく奇跡的に存在するのです。

―企画の立ち上げから展示されるまでの大まかな流れをお教えいただければと思います。
 展示・展覧会の流れというのが毎回変わっているので、一例として話します。
 「チームラボボーダレス」などを見ていただくと、作品が空間になっているのがわかると思います。実際にああいったものを作るとなると、まずはプロトタイプで小規模な空間を作ります。その中で作品を作ってみて、その空間の中に入って自分たちで体験していると、少し違和感が出てきたりするので、それをそれぞれの分野の人間が解決していくという作り方をしています。
 例えば「なにか没入感が足りないな」みたいな時、建築家で言えば「空間の作り方を変えたら、もうちょっと没入感があるんじゃないか」とか、CGアニメーションを作っている人間であれば、色合いを少し変えたりだとか、花びらが散るスピードが速いとか遅いだとか、流れるスピードが遅いとか、いろんな要素が関わってくる。
 そういうプロトタイプを作って中に入って、試行錯誤を何度も何度も繰り返して、最終的にアウトプットができる、という作り方をしています。

―アートディレクターの方がバシッと決めてそれを作る、というよりは、各専門家が共創するような形なのですね。
 アートディレクターが作ってしまうと、多分、アートディレクターの頭の中にあるものを実際に作るだけになってしまうのではないでしょうか。
 例えば「タイムマシーン」というイメージがあったとして、タイムマシーンを作るにあたって、アートディレクター自体はつけられない。タイムマシーンを作るには、今の時点では僕らにはわからないけど、見たこともない素材が僕らにタイムトラベルを可能にさせてくれるかもしれないし、誰かすごい天才的な数学者が、あるアルゴリズムを発明するかもしれない。もしくは誰かすごいハードウェアを作るかもしれないし、すごいプログラムを書くかもしれない。
 ただ、誰もがどういうアウトプットになるのかわからない。
 でもそれを実現するためには、集団でなんとなくぼんやりとタイムマシーンというものがあるということしかわからなくて。なんとなくこういうものが表現したいというコンセプトなり上手く言語化できない何かがあって、それをとにかく物理空間に実装したい、表現したいというものがある。
 僕らの作り方はそういった形に近いんです。

また、今あるテクノロジーというのは、いわば個人の脳を拡張するためのテクノロジーが多いですよね。パーソナルコンピューターと言われるくらい、自分のパーソナルなものを拡張したテクノロジーがあるなかで、僕らのやりたいことは、むしろ物理空間を拡張していきたいというもの。  なぜかというと、人間と人間が分かり合うとか、人間が世界を認知・認識するとき、それは別に目や耳だけでなく、もっと身体的に理解していると思うからです。
 なので、僕らが作る空間の中に、対象者を身体ごと没入させたいと考えています。
 そうなった場合、今主流のテクノロジーは、チームラボのような空間展示のためにつくられたテクノロジーやハードウェアではなかったりするので、自分たちで鑑賞者を作品空間に没入させるためのテクノロジーなど含めて、全てを考え、作らなくてはならない。
 絵具を使いたいから絵を描いているのではないのと同じように、僕らはテクノロジーを使いたいからものを作っているわけではない。言語化できない何かがあって、それを表現するためには、いろんなテクノロジーなりセンシングするなり、技術を使わなければいけないんです。

「表の色」と「裏の色」

―作品の特徴として、視覚情報であるはずの色を「身体的に感じる」ことができるように思えるのですが、どういったこだわりがありますか。
 「色」というのはなかなか難しくて、この色を表現したいから作品を作るっていうわけでもなくて。ただしどういう配色にするかとか、色の見え方はすごく気を使います。
 作品にはLED、モニター、プロジェクターなどのハードウェアが必要になりますが、すごく気をつかわないと、ネオン街のようになってしまう。そうならないように、どういう配色をするかというのはものすごく考えます。

「かさねのいろめ」という考え方がその1つです。
 昔は、絹自体に色を入れていたのですが、絹は薄いので裏地が透けて見えてしまう。なので、絹の裏の色と表の色を合わせ、外から見た時に一つの色に見えるようにしていました。それを重ねの色目といいます。僕らはそれを作品作りの参考にしています。

具体的な話で言えば、「チームラボボーダレス」の中にある「ランプの森」。輝いているランプがあって、だんだん暗くなっていくランプもあります。それは単純に明るさが沈んで暗くなっていくわけではなくて、暗くなった時の色というのを、「かさねのいろめ」でいうところの「裏の色」になるように配色しています。

<呼応するランプの森 - ワンストローク, Fire on Ice>「チームラボボーダレス」 東京 お台場
 もう一つ、色の話で分かりやすいのは「チームラボプラネッツ」のほう。大きな球体の作品《意思を持ち変容する空間、広がる立体的存在 - 平面化する3色と曖昧な9色、自由浮遊》で、それこそ色に包み込まれるという感じですが、光り方に「かさねのいろめ」を使っています。
 全部で12色の色に変化していく中で、光の三原色であるRGB(レッド、グリーン、ブルー)の3色は絵具でも表現できますが、他の9色は光でないと表現できない色です。例えば夕日とか朝日はそもそも光なので、絵の具で表現するのは難しい。そういう光でしか表現できない色をあえて使っています。体験している人のほとんどは気づかないと思うんですが。そういった色に包まれることは気持ちいい体験なのかなと思います。

<意思を持ち変容する空間、広がる立体的存在 - 平面化する3色と曖昧な9色、自由浮遊>「チームラボプラネッツ TOKYO」 東京 豊洲

―LEDの使い方に気を付けているということに付随して、プロジェクターもたくさん使われていると思います。
 プロジェクターの使い方はめちゃくちゃ考えます。例えばチームラボボーダレスの中だけでもいろんなタイプのプロジェクターを使っています。
 また投影面も、さまざまです。ファインアートで言うところのキャンバスが全然違う。水彩画用の画用紙とキャンバスを一緒に並べているにもかかわらず、その境界線がわからないように計算し投影しています。ここでもスクリーンとプロジェクターで投影するものの関係に、「かさねのいろめ」の考え方を取り入れています。
 ただこういった種明かしは手品と同じで、作品を楽しむのには必要ないことではありますが。

―他の取材を通して、「色」は人間の感性に直接的に訴えることができるという話を聞きました。チームラボでも感性に訴えるための色の表現というのは意識していますか。
 昔は染める、もしくは塗るということでしか色を表現できなかったんですよね。絹の中でピンクを表現したいときに、ピンクに染めるのではなくて、それが今は赤と白を重ねてピンクを表現する「かさねのいろめ」ができる。それが美しいと思える感覚がなんとなく僕らにはあって。
 自然の中には緩やかなグラデーションみたいなものがあるじゃないですか。例えば、桜の木にしても、全部の花がピンクなわけじゃない。そういうものを昔の人が「美しい」と思い、どうやったら表現できるかと考えたとき、例えば重ねの色目を使ったんじゃないかと思っています。

「チームラボプラネッツ」や「チームラボボーダレス」では、季節によって展示している作品が変わります。ちょうど桜の時期に新型コロナウイルスが来てしまって桜の作品が見せられなかったのですが。
 《呼応するランプの森 - ワンストローク、桜》はピンク色の作品ですが、赤く光った後に、色が沈んでいく。それも単純に暗くなっていくわけではなくて、いわゆる「かさねのいろめ」の裏側の色、黄色になっていく。マニアックな話なんですけど、赤が沈みながら黄色になっていくことで空間全体がなんとなくグラデーションの色で埋め尽くされていく。すると、僕らの中で言うところの「桜の色」を表現できるようになっています。

<呼応するランプの森 - ワンストローク、桜>「チームラボボーダレス」 東京 お台場

連続性の上に存在する

―作品ごとにコンセプトがあると思うのですが、どのように形にしているのでしょうか。
 文字や言葉で表現されたコンセプトがまずであるわけではありません。
 例えば、広告のキャッチコピーみたいなものがあって、キャッチコピーはテキストだから一次元じゃないですか。「じゃあ“ジャストドゥイット”を絵で描いてみて」みたいなことを言われると、二次元の世界は一次元より情報量が多いにもかかわらず、低次元のものから高次元のものを表現すると制限を与えることになってしまう。それを僕らはナンセンスだと思っていて。なので、できるだけ高次元のものからだんだん落としていく。

まず、言語化できない「ぼんやりした何か」があって、それを三次元という空間、プロトタイプ、場合によっては、空間自体を小さなサイズでつくります。その中で体感して、その次にそれを表現するために、二次元に落として映像に撮って、写真に撮る。それをさらに一次元に落とすと、それはコンセプトだったりタイトルだったりになります。
 だからチームラボの作品はコンセプトやタイトルがとても長くなり、僕も含めて誰一人覚えていない。多分作った本人も覚えていないんじゃないかな(笑)

ただ、「ぼんやりとした何か」は、チームラボ代表の猪子が基本的には考えていると思います。それが言語化されていくと、すごく大きなチームラボの目的としては、僕らが作っている作品を通して、人間、もしくは自分と、世界との関係というものの、新たな認識を模索していきたいというのがあります。
 世界と自分との関係性を模索する中で、ある作品で言えば、自分が作品の中の一部になる、境界線がなくなるということをコンセプトにしている。それが例えば、「チームラボボーダレス」という名前になっている。

―世界や人、人と人とのつながりを表現し、それを体験できる作品が生み出されているのですね。
 チームラボは現在、650人くらい所属していますが、実はエンジニアがほとんどなんです。バックグラウンドがサイエンスですが、アートにも興味を持つ集団です。サイエンスもアートも、世界をどういう風に認識するか。サイエンスのアプローチの仕方は、あえて猪子の言葉のまま言うと、「世界の解像度を上げていく」という方法です。
 どういうことかというと、例えば「森」を認識するのに、もう一つ小さな「木」というものに切り分けて、「木の集合体が森だな」と認識する。でも「木」を認識するためには、「細胞」みたいに切り分けて、さらに細かい段階に落としていって、どんどん小さくなっていく。
 でも解像度をあげていったところで、結局は世界を理解するということはあまりできないのでは。どんどん切り分けていくことで、離れていってしまうのではないかと思います。

人間というのは連続性の上に存在しているんです。簡単なことで言えば、両親や祖先がいて、人の営みがあって、他の生き物を食していて。人間というのは世界、自然の一部なんだけど、本当は境界なんかないのに、なんとなく自分が独立して生きているかのように誤解、認識しています。
 分断していく、切り分けていくことで、「理解した」と思ってしまうフィクション。そうせざるを得ないというか、そうしてしまうことに興味があって、その「業」みたいなものをどうやったら越えられるかなというのを、作品を通して表現し、自分たち自身も認識できたらいいなと思っています。

言語化できない何かが人間にはすごく重要なんです。そういうわけのわからないものを面白いとか美しいと感じたとき、自分たちの世界が変わっていくし、世界の見方が変わっていく。
 「チームラボプラネッツ」 で言えば、球体の中に入っていく作品《意思を持ち変容する空間、広がる立体的存在 - 平面化する3色と曖昧な9色、自由浮遊》があるんですが、それが何なのかよく分からない人もいる。でもそれを美しいと思ってくれたとき、美しさの世界が拡張している。そういうことができたらいいなというのが大きなコンセプトとしてあります。

<意思を持ち変容する空間、広がる立体的存在 - 平面化する3色と曖昧な9色、自由浮遊>「チームラボプラネッツ TOKYO」 東京 豊洲

体験を大切に

―作品を通した身体的体験を大切にされているチームラボとして、新型コロナウイルス感染拡大で「体験」できない現状は大きな影響があるのでしょうか。
 キツいですよね。プロットルーム作ってみんなで集まるわけにもいかないので。今は耐えつつ、自分たちにやれることをひたすらやり続けています。事態が収束したときにすぐに動けるようにいろいろ勉強する時期なのか、仕込みの時期なのか。試行錯誤しています。
 展示は閉まっていますが、ウェブサイトに作品の動画や画像などアップしています。僕らが一番興味のあるような表現をしていますし、その中には色というのも要素として入っているので、何度も見ていただくと「ああ、ここが変わってる!」と気がついていただけると思います。

―空間のなかで実際に体験する、というところは今後も大切にされていくのですね。
 「自分も世界の一部だ」ということを理解するのは、やはりその空間の中にいないと理解しづらい部分でもありますね。しかも他の人と一緒に。
 身体的体験が失われている今の状況が変わった時には、できれば大きな規模のものをやってみたいとは思います。

<略歴>工藤岳(くどう・たかし)
チームラボ コミュニケーションズディレクター。1977年生まれ。
チームラボは、アートコレクティブ。2001年から活動を開始。集団的創造によって、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索している国際的な学際的集団。アーティスト、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストから構成されている。チームラボは、アートによって、自分と世界との関係と新たな認識を模索したいと思っている。

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