国連の持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向け、企業が地域の課題解決に参画する「地方創生SDGs」が広がりつつある。その代表例として、日本製鉄は「鉄を利用した海の森づくり」、JFEスチールは「生物多様性の保全活動」を展開する。いずれも鉄をつくる際の副産物である鉄鋼スラグを活用し、海域の環境改善や漁業支援に一役買っている。副産物は臨海部に立地する製鉄所で生まれるため、もう一つの“地産地消”と言えるだろう。(編集委員・山中久仁昭)

鉄鋼スラグは原料に近い形の有用物で、1トンの鋼から400キログラム弱がとれる。日本全体の粗鋼年産量は2018年度に1億トン強で、鉄鋼スラグは3650万トン弱生産された。内訳は、上流工程でとり出され、鉄分を含まず、砂状が多い「高炉スラグ」が2274トン弱。高炉の後工程である転炉で生み出され、鉄分が豊富な粒状の「製鋼スラグ」が約1375トンだった。

【有効活用が課題】

高炉スラグはセメント工場などで再利用されているが、製鋼スラグは道路や土木用などにとどまり、有効活用が課題だった。原料である石灰石にはカルシウムなどが含まれ、不純物の吸着・除去に有用だとされる。

日本は島国で、海岸線の総延長は3万5000キロメートルだが、その約7分の1で「磯焼け」という現象が問題視されている。浅海で海藻の群落(藻場)が衰退・消失したり、海藻が繁茂しなかったりすることを指す。アワビやサザエなどが減少すれば、沿岸の漁業衰退にもつながりかねない。

【2用途探掘り】

海岸近くでは、水深の浅い場所「浅場」の復活を課題とする自治体も少なくない。本来は陸域から栄養塩が供給され、太陽光を受けて生物がすむはずだが、水がにごり、光量が不足したりしている。

自然に優しい製鋼スラグについて、鉄鋼業界は「陸での活用にとどまらず、海に目を向けることになった」(日本製鉄)。各社は「栄養分の供給」と「浅場の造成」の二つの用途を探掘りしている。

日鉄、北海道でコンブ場復活

【38カ所で実績】

日本製鉄は「鉄を利用した海の森づくり」とのテーマで、02年から製鋼スラグなどを利用した藻場再生に取り組む。北海道増毛町や泊村など全国の38カ所で実績を積んでいる。

増毛町では鉄欠乏によるコンブ場の衰退が指摘され、その対策として東京大学との共同研究を通じ鉄分供給資材「ビバリーユニット」を開発した。鉄分を多く含む製鋼スラグと人工腐葉土を混ぜたユニット。本来、森林から海藻に供給される腐植酸鉄を人工的に海水中に送る取り組みだ。

日本製鉄はホソメコンブ場の回復に取り組む

04年に実証試験を始め、観測を10年以上続け、コンブ場の復活とその維持を確認。スラグ製品などで対応をしていない場所と比較して、1平方メートル当たりのコンブ湿重量は約220倍だ。キタムラサキウニ水揚げも増加しているという。

【海藻・海草繁茂】

同じく日本海側の泊村では19年秋、地元の漁業協同組合と共同で2トンの「ビバリーユニット」をヤシ繊維製の袋に詰めて埋設した。漁業の持続的発展に寄与でき、砂漠化した海底の回復を図る。二酸化炭素(CO2)吸収源となる海藻や海草を繁茂させることは、地球温暖化対策にもつながると期待している。

埋め立てた海岸に光の当たる浅場を

一方、都市部には埋め立てた海岸が多く、光の当たる浅場をつくるプロジェクトも推進中。ドロ状のものを安定した土に変えることが不可欠。そこで、軟弱な浚渫(しゅんせつ)土と製鋼スラグでつくったカルシア(酸化カルシウム)改質材を混合して、改質することが可能だ。

【貧酸素対策】

日鉄では、首都圏の太平洋側での取り組みもみられる。千葉県君津市では、君津市役所、地元漁協とともに、13年から貧酸素による水産生物の減少対策を講じている。砂、石のほか、カルシア改質材と軟弱浚渫土を合わせて沖合の地盤を変えたことで、貝やフジツボ、ゴカイなど生物が海岸に寄ってきた。

東京湾には広大な工業地帯が広がる一方、生態系の保護も大きな課題(日本製鉄の東日本製鉄所君津地区、千葉県君津市)

当面、12万平方メートルを目標に、毎年1万平方メートルずつ広げていく考え。君津は臨海工業地帯の一角。日鉄の東日本製鉄所君津地区の高炉がある。一連の製鋼スラグ製品は、近くにある同社技術開発本部で開発された。

【海の“森づくり”】

また、瀬戸内製鉄所広畑地区が立地する兵庫県姫路市でも、五洋建設や地元漁協と連携して、生物がすめる森づくりを進めている。
 日鉄は各種スラグ製品で「豊かな海づくりに貢献でき、事業化にもつなげられれば」(スラグ事業・資源化推進部の木曽英滋主幹)と夢を膨らませる。

製鋼スラグから製品化した日本製鉄のビバリーユニット

JFE、福山・横浜で水質浄化

【自治体と研究】

JFEスチールは「生物多様性の保全活動」をテーマに、海洋環境を再生する鉄鋼スラグ製品の開発や、自治体との共同研究を進めている。こちらも「豊かな海づくり」の取り組みであり、16年に広島県の福山港の港湾海域で着手し、13年からは横浜市の山下公園前海域の水質浄化能力回復にかかわっている。

粒度を調整した製鋼スラグ製品「マリンストーン」は、海域の底質や水質を改善する覆砂材、浅場や藻場の基盤材に適している。閉鎖性海域のヘドロ状底質から、悪臭を放つ硫化水素の発生を抑え、生物がすめる環境への改善を促している。

JFEスチールが取り組むプロジェクトでは貝とホヤが群れをなす

福山港ではこれまでに「マリンストーン」が3万8000トン超施工された。福山市から悪臭の解決策はないかと相談があり、取り組みが始まった。幅100メートル×奥行き2・2キロメートル、水深2―4メートルの運河状海域に有機物含有量の多い底泥(ヘドロ)が堆積し、異臭を放っていた。港の奥部に合流式下水処理施設があり、大雨の際、処理前の下水が流れ、春から夏にかけて悪臭が発生していたのだった。

【能力を回復】

横浜市の山下公園前海域のプロジェクトは13年にスタート。生物が付着する磯場を造成し、本来あるべき水質浄化能力を回復させるのが狙い。ここは、JFEスチールの東日本製鉄所京浜地区(川崎市川崎区)にも近く、多くの観光客が憩える場所でもある。

横浜港付近の海底はヘドロが堆積し、夏場には顕著な水質悪化がみられ、生物の産卵場や育成の場としての機能が失われたまま。赤潮発生や降雨による濁質の流入、埋め立てなどによるとみられる。

【横浜と連携協定】

横浜市との連携は、山下公園前で行われる世界的なスポーツイベントを控え、水質の改善策がないかと相談されたことがきっかけ。汚濁防止膜のおもりとして、製鋼スラグと排ガス(CO2)が原料の炭酸固化体製品「マリンブロック」を提供した結果、二枚貝やホヤなど濾過(ろか)性生物が多く付着した。

同製品が水質浄化機能を持つことも分かり、1日当たり約1万1000キロリットル(25メートルプール22杯分相当)の海水を濾過していると推計。20年3月には同市と豊かな海づくりに関する連携協定を結んだ。

宮城で藻場再生

このほか、JFEスチールは宮城県にある松島湾の藻場再生を進める東北大学、NPO環境生態工学研究所に協力している。11年の東日本大震災ではアマモ藻場などが大きな被害を受けたが、それを修復する取り組みだ。

JFEスチールが製鋼スラグから商品化したマリンストーン

山口県東部の海域藻場造成では、地元漁協に「マリンストーン」が採用され、3万6000平方メートルの浅場をつくり、魚介類や海藻などの付着が確認された。同社のスラグ製品を使う生物生息環境改善事業(実証含む)は全国9カ所で進められている。