新型コロナウイルスの感染拡大でほぼすべての企業の事業継続計画(BCP)が実行段階にある。日本は多くの従業員が健康なまま、オフィスや交通、物流、外部の委託先企業の機能が損なわれた点が特徴だ。感染症のBCPが古いと、現在のIT環境に照らした修正が求められる。そしてリスク管理の対象に会員制交流サイト(SNS)の炎上をはじめとするソーシャルリスクも加わった。不確かな情報が拡散し、買いだめなども起きている。(取材・小寺貴之)

【10年以上経過】

「以前BCPを策定したメンバーを探しだし、対策本部に加えた企業は機動的に動けている。BCPを作った後も定期演習で対応力を培ってきたかどうか。新型コロナで痛感している企業は少なくない」とニュートン・コンサルティング(東京都千代田区)の副島一也社長は指摘する。リスクと現場課題を洗い出し、思考実験を重ねてきた策定メンバーはBCPを実行に移す中核的な役割を担う。

ただ感染症のBCPは2009年のブタインフルエンザの流行を機に更新整備された。10年以上前の計画を見直し、当時からの環境変化に戸惑う企業は少なくない。策定メンバーが危機管理部門からいなくなっている場合、対策本部に集める必要がある。

新興感染症では人材や設備、拠点に物的な被害はないものの、容易にアクセスできない状況になる。10年前と比べ、ビデオ会議やチャットツールなどIT環境は向上している。コミュニケーションそのものが滞る場面は減った。対策本部で情報を集めて対策を打つこと自体は滞りなく進められる。

久野陽一郎シニアコンサルタントは「遠隔で現場をつないで議論できる。現場にどんな影響があるか、具体的にイメージできる現場の人間とBCPを動かし、より緻密な対応が可能になった」と説明する。

【優先順位定める】

同社では対応支援として、社内から感染者が出た際に濃厚接触者を洗い出すシミュレーションや、感染者が増えて事業が止まるシミュレーションを提供する。例えば感染者が出たとわかると早急に濃厚接触者をリストアップする必要がある。濃厚接触者の検査結果が出るまでは誰かが仕事を肩代わりする必要がある。働ける人員が減ると維持できる業務が限られてしまう。例えば商社ならエネルギーや食品、衣料品などの複数の事業を抱える。経営視点と社会的な視点で存続する業務を決めなければならない。

中小製造業でも医療機器と自動車部品、電機部門など、複数の分野に顧客にもつ会社が多い。経営リソースの過不足に応じて、どの業務を優先して維持するか優先順位を定めておく必要がある。

そして事業責任者が感染隔離された場合の意思決定フローも重要だ。次に何が起こりえるか、BCPに照らし合わせて対応策をまとめ、従業員と共有しておくことが大切だ。準備なしに、危機の中の他部門を手伝うのは無理がある。副島社長は「IT技術の進歩で以前よりもBCPを実行しやすくなっている。今後の定期的な訓練を含めて、リスク対応力を高める機会にもしてほしい」という。

【誠実に情報開示】

コロナ禍では風評被害を伴うソーシャルリスクも顕在化している。あるファストフードチェーンは接客員のマスク着用を禁止するブラック企業だとSNS上で炎上した。従業員の品不足予測の発信が、不要な買いだめをあおると批判された小売り企業もある。

リリーフサイン(東京都港区)の四家章裕社長は「炎上してから当事者にできることは限りがある。その前に誠実に情報を開示し対応することが重要」と強調する。

従来はマスクなどの接客ルールは経営に影響する事象ではなかった。投資家向け広報(IR)の開示基準では情報公開の対象にならないかもしれないが、IRと社会の求める情報開示には開きがある。普段は関心を持たれにくいBツーB(企業間)企業であっても、経営を揺るがしかねない情報が流れうる。そのため炎上の火種や論調の変化をモニタリングすることは重要だ。

同社は企業のSNSリスク対策を支援し、危機管理部門のソーシャルリスク担当者を養成する。例えば会社が感染者を隠蔽(いんぺい)しているという情報が拡散した場合に備え、誰がどのように調査して状況を確かめ、事実と対策を開示するかプロセスを整えておく必要がある。大きな組織ほど正確な状況把握が難しくなる。

四家社長は「素早く調査し誠実に開示する。そのためには社内に人材を育てておくべきだ」と指摘する。

今回のコロナ禍はメディアが新型コロナの報道一色になり、社会がため込んでいるストレスも大きい。大きなストレスが一つのテーマに集中しているため、情報の真偽にかかわらず炎上しやすい状態にある。

ただ情報を拡散する個人の大多数は炎上を拡大させようと考えているわけではない。一人ひとりの正義感や規範にのっとって情報を選択し発信している。確信犯がいないとはいえないが、結果として炎上という社会現象が起きてしまう。

【対応記録残す】

新型コロナで企業のBCP実行力が試されている。自粛の範囲や炎上の火種など、日々変わる状況に対して、どう対応できたか記録を残していくことが重要だ。このデータを社会や組織のレジリエンス(強靱〈きょうじん〉性・復元力)を高めるために活用することが望まれる。