従業員300人配転―地域にダメージ

国内造船2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU、横浜市西区)が舞鶴事業所(京都府舞鶴市)での商船建造から撤退する。2021年4―6月にも建造を止め、艦船修理に特化する。海軍工廠(こうしょう)をルーツとする日本海側唯一の大型造船所で雇用への影響が懸念される。経済合理性からやむを得ない決断だが、JMUの一連の動きは造船大手の苦悩を映す。(京都・大原佑美子)

今治造船との提携に活路 中・韓勢と差別化必要に

6月3日、参議院国際経済・外交に関する調査会。議題の海事産業の基盤強化について参考人に立った舞鶴市の多々見良三市長は「突然こういう変化が起こることを疑問に思う。なぜもっと早めに分からなかったのか」と憤り、JMU舞鶴事業所での商船建造撤退に不快感を示した。

従業員約300人が配置転換となり造船所の「約7割が空き地になる」(多々見市長)。下請けを含めた地域のダメージは甚大で多々見市長は「地元の首長として心苦しい」と胸の内を明かす。8割の社員が地元に残留することを望んでいるという。

JMUでは規模の小さな舞鶴事業所をめぐり19年半ばから舶用メーカーの間で「舞鶴向け商船受注が途絶えている。手持ち工事の線表が伸びていかない」とささやかれていた。

一方でJMUは19年11月に国内造船首位の今治造船(愛媛県今治市)との提携を発表。IHIやJFEホールディングス(HD)、日立造船という日本を代表する重厚長大企業を株主とするJMUが、オーナー系の今治造船から出資を受け入れる内容は、業界で衝撃を持って受け止められた。

21年4―6月に商船建造から撤退する舞鶴事業所

業績改善に向けた改革の絵を示してほしい―。赤字体質にかねて株主から改革を迫られていたJMU。大型再編をテコにした成長戦略と合理化をセットに再建構想を描いた。2月、大型再編のはざまで舞鶴縮小が正式に決まった。

さかのぼること2年前。JMUと関わりの深い造船所が閉鎖された。「100万トンドック」の異名を持ち、超大型タンカーなどの新造船を送り出してきたIHIの旧愛知工場(愛知県知多市)だ。

IHIは造船事業をJFEHDと統合する形で切り出したが、海洋事業拠点として愛知工場を本体に残していた。ところが海洋構造物工事でつまずき、多額の損失を計上。液化天然ガス(LNG)運搬船などに使われる独自アルミニウム貯蔵タンクに愛知工場の存続を託した。

14年、満を持してJMUが同タンクを搭載した大型LNG船を受注したが、長年にわたるLNG船建造の空白を埋められずに工程が混乱。業績悪化を招いた。その後、JMUがLNG船を受注する計画は途絶え、愛知工場は役割を失った。

超大型ヤード(造船所)を武器に大量受注をさらう韓国、低船価で追い上げる中国に対し、数年前には「日本の造船所は高付加価値船で差別化するべきだ」との論調が主流派だった。日本の大手造船はLNG船やブラジルでの海洋構造物事業、客船など難しい工事に手を出したが、結果は惨敗。造船所の縮小は敗戦処理の一環だ。

事業売却・譲渡相次ぐ 環境規制・AI対応急務

三菱重工業は主力の長崎造船所香焼工場(長崎市)を大島造船所(長崎県西海市)に売却する方針を固め、商船は下関造船所(山口県下関市)のフェリーなどを中心とする構造改革を断行する。

三井E&S造船(東京都中央区)は、千葉工場(千葉県市原市)での商船撤退の決定に続き、創業の地である玉野艦船工場(岡山県玉野市)の艦船事業を三菱重工に譲渡することを決め、国内の新造船事業からは実質的に撤退する方向だ。

6月、現代重工業など韓国造船大手3社が中東カタールから合計2兆円規模のLNG船を大量受注することが分かった。中国造船最大手の中国船舶集団にも3000億円規模が発注されるという。海洋事業の失敗で経営が傾いた大宇造船海洋への韓国政府の支援が問題視されるが、韓中ヤードの力は強い。19年には韓国と中国で、各1、2位企業が統合に合意。統合2社の世界シェアは約4割に達する。

翻って日本。2年分が安全水域といわれる手持ち工事は目下1・2年分程度に枯れ、操業ダウンを余儀なくされる。勝ち筋をどこに見いだせば良いのか。世界の海上荷動き量はリーマン・ショック後の09年に前年比で減少したが、基本的には世界経済成長率と連動して増加し、一定の新造船需要がある。

焦点は環境規制だ。国際海事機関(IMO)は50年までに温室効果ガスの排出量を08年水準の半分に削減する目標を掲げる。従来技術の延長線では達成できず、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)を駆使した最適航路設定、新素材の採用、自動操船など勝負の土俵が変わる公算が大きい。

5月、国土交通省がまとめた「海事産業将来像検討会」の報告書。企業間連携・統合の促進やデジタル化に対応した産業構造への転換、官公庁船分野の海外展開などが示された。政府系金融機関による出融資の活用検討など踏み込んだ内容だ。

造船、海運、舶用機器などという従来の海事クラスターにとらわれず、IT企業や港湾事業者などバリューチェーンを進化させなければニューノーマル(新常態)の世界では生き残れない。造船業の国内就労者数は約8万人。大胆な改革を進めなければ雇用は失われ続ける。

インタビュー/舞鶴市長・多々見良三氏 造船技術生きる産業誘致

舞鶴市長・多々見良三氏

―JMUの商船建造撤退は地域に大きなダメージを与えます。

「どんな産業も下火になればやめざるを得ない。一定の理解はしている。ただ日本の造船業は技術力は高いが設備投資の遅れで世界と戦いづらくなっているように思う」

―事業所の7割近くが空きます。

「洋上風力発電設備を建造できる製造業の誘致を目指す。国家事業として2―3年以内に構想を示してもらえるよう働きかける。雇用を生み、造船業の技術力を生かせる産業を誘致したい。干満の差がほとんどなく、津波に強い舞鶴港は積み替え港としても格好だ」

―市としての雇用政策は。

「JMUと協力会社の従業員の雇用を確保できるよう万全を期す。商工会議所などと連携し、再就職希望のJMU従業員を対象に市内事業所説明会を開くほか近隣市町の企業にも協力を呼びかける。雇用する企業には国の労働移動支援助成金を活用してほしい」

―日立造船が建設運営を担う予定だったパーム油発電所立地計画が断念されました。

「スポンサーさえいればやってみたい。パーム油にこだわらず工業用地としてあの場所を利用できるような企業を誘致したい。まちづくりに稼ぐ場所は必要だ」

不安に揺れる港湾都市舞鶴、雇用はどうなる?

舞鶴市の観光名所「舞鶴赤れんがパーク」。日本海側の国防の要として約120年にわたり海洋国家を支え続けてきた港湾都市の象徴

ジャパンマリンユナイテッド(JMU)が舞鶴事業所での商船建造を終了するまであと1年。京都府、舞鶴市は関係機関を招集した「JMU舞鶴事業所対策連絡会議」を共催し、雇用対策などに力を注いでいる。日本海側の国防の要として約120年にわたり海洋国家を支え続けてきた港湾都市が揺れている。

2020年2月4日、舞鶴市役所。舞鶴市の多々見良三市長はJMUの千葉光太郎社長と向き合っていた。JMUによる前日の撤退発表を受け、多々見市長は「存続のために何かしたんですか」と切り出し、千葉社長は「国とも掛け合ったが解決策が得られなかった」と返したという。

人口約8万人の小都市、舞鶴市にとってJMU舞鶴事業所の存在は極めて大きい。商船では中型のバラ積み船やタンカーを建造し、建造能力は年間6隻前後。金属加工や塗装、電気、運輸など幅広い市内関連企業を束ねる基幹産業として地域産業をけん引し、ベトナム人研修生を含め550人(20年1月時点)が働いている。

舞鶴市の製造業事業所数は漸減傾向にあり、15年の115事業所から18年には102事業所に減少。一方、製品出荷額は1812億円と、バラつきがありながらも近年は増加傾向で推移してきた。JMUが商船事業から撤退すると情勢は大きく変わる恐れがある。

舞鶴商工会議所が2月に会員企業を対象に実施した緊急アンケートによると、約4割が売り上げに影響があると回答。このうち対応策がある事業所は1割に満たなかった。最も緊急を要する支援内容について「新規受注先」と回答した事業所が最も多かった。

「舞鶴のモノづくり技術が消滅する危機。撤退を撤回してほしい」「より一層の沈み込みのきっかけになる」「JMUの配転で下請け事業者が追い出され従業員への影響が出ることは避けて」など不安視する意見が出た。

舞鶴市は今後、同商工会議所やハローワークなどと連携し、市内企業と、同市内で転職を希望するJMU従業員とのマッチングイベントを開くなど、積極的に雇用対策に取り組む。さらに洋上風力発電設備の建造を誘致するほか、舞鶴港を再整備し、トランシップ(積み替え)港としての機能強化を図るといった構想を、国家事業として進めてもらうべく、今後国に要望を伝える方針だ。

多々見市長は「国土交通省や京都府などと連携した舞鶴港の機能強化やエネルギー拠点化に向けた施策を推進する」という。また、京都府北部5市2町の圏域があたかも一つの30万人都市圏として機能するための広域連携の必要性を訴える。

JMUが舞鶴事業所での商船建造を終えるまでに残された時間は少ない。地域経済活性化に向け、市長のリーダーシップが一段と求められる。