電力制度を分かりやすく解説した動画を配信する“電力系ユーチューバー”が登場した。伊藤奈々さんと棚瀬啓介さんの2人だ。2人とも趣味で活動するが、オンラインでの取材や再生可能エネルギーの電気を使った配信もする。“コロナ時代”や脱炭素社会のユーチューバーと言えそうな2人はどんな人物なのか。ベンチャーの社長と対談する動画中継にお邪魔した。

7月のある日、ユーチューバー2人がデジタルグリッド本社(東京都千代田区)のモニターに現れた。同社の豊田祐介社長とは初対面だが、画面越しにあいさつを済ませ、動画の生配信を始めた。

デジタルグリッドはブロックチェーンを駆使し、使った電気がどの発電所で作られた電気か分かる技術を開発して2017年に創業した。豊田社長が「電気に色を付けて売買する」と説明すると、伊藤さんは「今後はどんなジャンルの色(電気)が出てきますか。アイドルが作った電気もやってほしい」とリクエストして場を和ませた。

棚瀬さんは「金融がどう事業に関わりますか」と鋭い質問で切り込んだ。豊田社長は「再生エネ発電所は建設資金が必要。発電側と買う側が契約していたら安心感があり、金融機関も資金を貸しやすくなる」と解説。発電所を選んで電気を購入できるデジタルグリッドの技術が、資金調達にも生かせる。同社社員の飲み会での会話にも話題がおよび、1時間の配信が終わった。

棚瀬さんはインフラ関連企業に勤務する会社員。異動した電力事業部門では「電力について知っていて当然という空気。専門用語が飛び交っていた」という。適当な参考書もなく理解に苦しんだ体験から、電力の解説を始めた。初めの1年間は解説文をネットに公開し、20年からは動画に切り替え、配信は180本を超えた。「1、2人は視聴者がいたので続けられた」と胸を張る。

伊藤さんは5年ほど勤務した新電力を退社後、19年8月から別の仕事をしながら「電気予報士」を名乗って活動する。「地方を訪ねるうちに、電気の価値観が広いと気づいた」ことがきっかけだ。

今年5月の連休、共通の知人を通してお互いの存在を知り、オンラインで打ち合わせをして共同配信も始めた。再生エネの価値を訴えた動画で「私たちが使わなければおかしい」(伊藤さん)と思い、動画配信の電気を再生エネで賄うことを決意。デジタルグリッドの技術を活用し、沖縄県の琉球大学にある太陽光パネルの電気を活用した形で配信を始めた。この縁で豊田社長との対談が実現した。

伊藤さん(モニター)から質問を受ける豊田社長(右)

感染症対策でテレワークやオンライン会議が増え、デジタル関連のエネルギー消費に伴う二酸化炭素(CO2)排出増加が懸念されている。趣味で活動する電力系ユーチューバーが、デジタル化と温暖化対策の両立に先鞭(せんべん)を付けたかもしれない。

動画配信に再エネ証明 ブロックチェーン活用

デジタルグリッド(東京都千代田区、豊田祐介社長、03・6256・0063)は、ブロックチェーンを使って再生可能エネルギーを使った価値を取引可能にした「CREV」を動画配信チャンネルの運営者2人に提供した。2人は配信に必要な電気を再生エネで賄ったと訴求できる。スポーツイベントやTシャツの印刷を“実質・再生エネ100%”化した事例はあるが、動画配信は初めて。

CREVは家庭や工場などが再生エネ電気を自家消費した価値で、デジタルグリッドが独自に取引できるようにした。2人とも個人の活動として動画配信サイト「ユーチューブ」で電力や再生エネを解説している。デジタルグリッドは沖縄県の琉球大学で稼働する太陽光パネルの電気をCREVとして届けた。カーボンフリーコンサルティング(横浜市中区)が、2人が合計2000キロワット時の再生エネ電気を使用した証明となる「再エネ証明書」を発行した。

動画配信でCREVの活用例ができたことで、デジタルグリッドはオンライン会議での利用も見込んでいる。