食品メーカーが原料の生産地支援を活発化している。伊藤園は地元生産者と組み、静岡県で茶園造成に着手。キリンビールは農業法人に出資するほか、カゴメは営農システムを拡販している。高齢化や後継者不足などで農業生産者の減少は課題だ。そんな中、産地支援で原料調達の安定化につなげる。また、生産者にとっても収益性の向上が期待できる。連携の取り組みを追った。

伊藤園は8月、静岡県で耕作放棄地を活用した大規模な茶園の造成に着手した。茶葉の生産や1次加工を手がける秋田製茶(静岡県袋井市)と協力。秋田製茶が袋井地区に点在する耕作放棄地を集約、造成して、伊藤園向けの専用茶葉を生産する。伊藤園は緑茶飲料「お~いお茶」などの原料として茶葉を全量買い取る仕組みだ。

伊藤園は2001年から事業者や自治体などと連携して大規模茶園を造成し、生産した茶葉を全量買い取る「新産地事業」を展開している。静岡での取り組みはその一環。伊藤園の植田幸市仕入部長兼農業技術部長は「これまでの新産地事業はゼロベースで始めてきた」と話す。従来は建設業など異業種の新規参入事業者と連携し、大規模茶園を造成してきた。生産者との取り組みは今回が初めてだ。

秋田製茶は現在、40万平方メートルの茶園を保有・管理している。連携により、40年をめどに100万平方メートルに拡大する計画。県などと連携して、袋井地区の茶園を大規模化し作業の効率化を図りながら、生産量の拡大を目指す。

静岡では「誰にも言わずに栽培を辞めてしまい、所有者が分からない小さい茶園が点在している」(秋田製茶の秋田晃志氏)ため、集約も一筋縄ではいかないのが現状だ。広大な茶園の中で、部分的に耕作放棄地があり、効率化の妨げにもなっている。県と連携しながら耕作放棄地となっている茶園の所有者を1軒1軒回り、栽培の受委託などを提案する方針だ。

全量買い取り、農家収益増

伊藤園の新産地事業は大規模茶園への造成を支援するとともに、茶葉の生産に関する技術・ノウハウを全面的に提供。生産された茶葉を全量買い取る事業だ。茶農家と全量買い取りを契約する「契約栽培」と合わせて、高品質な国産緑茶原料の安定調達や、生産者の雇用維持、茶業界の発展を目指す「茶産地育成事業」の一つとして取り組んできた。

新産地事業は宮崎県都城地区でスタート。今回の静岡県袋井地区を加え、現在は鹿児島県曽於(そお)地区、長崎県西海地区、大分県杵築(きつき)地区・宇佐地区・臼杵(うすき)、佐賀県太良地区の6県8地区で展開する。茶園の面積は21年4月期で2000万平方メートルを超える見通しだ。全体の茶葉使用量の35%を賄っており、植田部長は「将来的には使用量の50%を茶産地育成事業の茶園で仕入れたい」と話す。

茶葉生産量が全国1位の茶どころである静岡で、新産地事業を始めたのは、茶の生産における危機的状況が背景にある。。静岡は家族経営の小規模茶園が多い。袋井地区の茶園は一見すると広大だが、実は農家ごとに細かく区画が分かれている。植田部長は「大規模茶園が多い鹿児島県などは茶刈機を7万―10万平方メートルに1台保有しているが、静岡の茶園は一家に1台。生産効率は非常に低い」と話す。

近年、茶葉の価格は下落傾向にあり、生産者の収益性が悪化。これに高齢化と担い手不足が拍車をかけ、耕作放棄地が拡大している。秋田氏は「袋井地区でここ数年、新規就農者はほぼいない。もうからないので、生産をやめてしまう農家も多い」と静岡の茶農家が置かれる苦境を明かす。

実際、19年の静岡の茶生産量は前年比12%減の2万9500トンと1951年以降初めて3万トンを割った。一方、鹿児島は順位は2位だが、生産量は前年横ばいの2万8000トン。その差は1500トンと僅差に迫っている。摘採面積(19年)でも静岡は10年比で約16%減少した一方、鹿児島は同約3%の減少にとどまる。鹿児島は効率化により収益性と生産性を維持しており、20年は順位が入れ替わる可能性も高い。

キリン・カゴメ、地域活性化も視野

食品メーカーに産地支援の動きは広がる。キリンビールは18年に農林中央金庫と組み、岩手県遠野市の農業法人「BEER EXPERIENCE(ビア・エクスペリエンス)」に出資した。ビールの原料であるホップの生産を支援するためだ。同市は日本有数のホップの産地だが、高齢化や後継者不足、輸入品に押され、生産量がピークの4分の1に減少。キリンの支援により、畑を大規模化・効率化し、生産量の拡大を目指す。

キリンが国産ホップの生産に注力する背景には、クラフトビール人気の高まりがある。国内外のクラフトビールの醸造家に、日本産のホップが見直され、需要が拡大。キリンはクラフトビールを注力事業の一つに位置付けており遠野でのクラフトビール醸造も視野に、地域活性化にもつなげたい考えだ。

カゴメはNECと共同で、4月から営農支援事業を始めた。欧州など海外のトマト1次原料加工業者に向けて、センサーや衛星写真でトマトの生育状況や土壌の状態を可視化するサービスと、人工知能(AI)を活用した営農アドバイスサービスを提供。熟練栽培者のノウハウを習得したAIが、水や肥料の最適な量と投入時期を指示し、収穫量の安定化と栽培コストの低減を実現できる。

ポルトガルや豪州でサービスの導入が進むほか、スペインの加工会社なども採用。導入企業が保有している畑の面積は3000万平方メートル以上で、今後はイタリアや米国などにも展開する計画だ。

キリンビール出資の農業法人が生産するホップ
(取材・高屋優理)