トヨタ自動車が、約20年ぶりに自社開発のスポーツ4輪駆動(4WD)車を復活させた。世界ラリー選手権(WRC)など、モータースポーツ向けの競技車両を市販化する「これまでとは逆転の発想」(豊田章男社長)で開発した「GRヤリス」を4日に発売。開発・生産・販売など各部門の垣根を越えてつくり上げた“トヨタ純正のスポーツ車”は「トヨタのモノづくりに大きく影響する」(同)新機軸を打ち出した。(名古屋編集委員・長塚嵩寛)

「レースに勝つためにつくったクルマを市販車に使ってもらう。(車両開発の)流れを大きく変えた最初のクルマだ」。豊田社長はGRヤリスの開発をこう意義づける。開発初期から社外のプロドライバーが参画するなど、スポーツ車としての性能を徹底的に磨き上げた。

豊田社長自身も、性能や乗り心地を最終的にチェックする「マスタードライバー」としてクルマとの対話を繰り返した。オールトヨタの総力を結集し、開発から生産まですべてを自社で完結することに成功。豊田社長は「トヨタのスポーツカーを取り戻した」と力を込める。

GRヤリスのデビューは鮮烈だった。発売直後の9月上旬に富士スピードウェイ(静岡県小山町)で開催された24時間耐久レースで、豊田社長もハンドルを握ったチームがGRヤリスで優勝。競技車両はタイヤ以外はほぼ市販車と同様のスペックといい、GRヤリスの高い潜在能力を実戦で証明した。

ターボチャージャー(過給器)搭載の排気量1600ccエンジンや、前後輪の駆動力を状況に応じて最適に配分する4WDシステムなどを導入し、レースでも戦える市販車に仕上げた。GRヤリスは「モータースポーツを起点としたクルマづくり」(同)の一里塚となった。

生産面でも新たな試みを取り入れた。数々のスポーツ車をつくり込んできた元町工場(愛知県豊田市)内に、専用の生産ラインを設けた。セル生産方式による多品種少量生産に適したラインを構築した。

豊田社長は専用ラインについて「スーパーカーをつくる工程」と表現。工業製品としてのバラつきを最小化し、1台1台を丁寧に作り込んでいる。全社から集めた熟練工が生産に携わっており、長年培ってきた技能を伝承する機会としても期待は大きい。

トヨタがモータースポーツという極限の場で得た知見を市販車に落とし込むのは、世界のあらゆる道で誰もが安心して意のままに運転できるクルマを提供するためだ。豊田社長がかねて提唱している「もっといいクルマづくり」は、GRヤリスの完成によって新たなステージに上がった。