米アップルが13日(現地時間)に発表したスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の最新モデルは、全4機種で第5世代通信(5G)に初めて対応した。下位2機種で国内販売価格を7万―8万円台に抑え、2019年に発売した「11」と同価格帯とした。5Gスマホでは韓国サムスン電子やシャープなどが先行してきたものの、日本国内で特に人気の高いアイフォーンの投入により、5Gの普及が加速するとみられる。(苦瓜朋子、斎藤弘和、編集委員・鈴木岳志、同・松沢紗枝、同・宇田川智大)

中韓勢に対抗、全4機種対応

「今日、アイフォーンの新時代が始まる」―。米カリフォルニア州の本社で発表会を開いたアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は新製品に胸を張る。

新型アイフォーンは23日以降順次発売する。標準モデル「12」には6・1インチ、小型モデル「12ミニ」には5・4インチの液晶ディスプレーと2眼カメラを採用。暗い場所でも自動で明るく撮影できる「ナイトモード」も搭載した。「12」の画面サイズは「11」と同様だが、デザインの見直しで小型軽量化した。

上位機種「12Pro」「12Pro Max」には3眼レンズのほか、対象物にレーザー光を照射し、高精度に距離を測定する高機能センサー「LiDAR(ライダー)」も搭載した。拡張現実(AR)の高度化や暗所撮影時のピント合わせに役立つ。国内ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが販売する。

当初、5Gスマホは定価10万円超の高価格機種が中心だったが、最近は普及モデルの発売が相次ぐ。日本市場でも、小米(シャオミ)やZTE、OPPO(オッポ)といった中国勢が、国内通信大手を通じて4万―7万円台の低価格端末を発売。国内メーカーもシャープが「アクオス」の一部モデルを10万円以下で発売し、幅広い層の取り込みを急ぐ。米グーグルもKDDIとソフトバンクを通じて「ピクセル5」「同4a(5G)」を15日に発売する予定だ。

国内シェア伸長狙う

日本市場におけるアップルのシェアは世界と比べて高い。米IDCの4―6月の世界スマホ出荷台数調査によると、アップルのシェアは13・5%と、中国・華為技術(ファーウェイ)の20・0%、サムスン電子の19・5%に次ぎ、3位にとどまる。一方、IDCジャパンの国内調査では40・4%と、2位シャープの13・5%に大きく差をつけてトップシェアを維持する。

新型「iPhone」発表から一夜明け賑わうアップル銀座店(14日)

ただ、国内では5Gの利用エリアはまだ狭い。携帯通信大手3社とも、現在、5Gが使えるのは東京都内でも一部にとどまる。各社は地方での基地局整備の共同化や、4G用に割り当てられた周波数帯の転用などを進めるものの、4Gと同水準に全国各地で5Gが使えるようになるのは23年ごろになる見通しだ。各社は通信インフラの整備を急ぎつつ、新型アイフォーン発売をテコに5Gサービスの契約を上積みできるかが問われる。

携帯通信各社は、5G普及に伴って通信料金をどう設定するかも課題になる。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社は菅義偉政権の要請も踏まえ、値下げに向けた検討を進めている。

通信料金見直し後押し

焦点になりそうなのは、データ通信を多く使う人向けの大容量プランだ。動画配信サービスの浸透や、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う在宅での勤務・学習の広がりなどで、通信量の増大が予測されてきた。5Gの普及によって、こうした傾向に拍車がかかることは必至。結果として「大容量プランの料金見直しの機運が高まることは自然だ」(携帯通信大手関係者)。

加藤勝信官房長官は14日の会見で、「国際的な料金水準なども参考にしながら、各社が料金引き下げについて積極的に検討することを期待する」と述べた。

総務省が世界の主要6都市におけるシェア1位の事業者について3月時点のスマホ利用料を比較したところ、月間データ使用量が20ギガバイト(ギガは10億)の大口利用者に関しては東京のドコモが最高値だった。この調査結果を根拠に政府が値下げ圧力をかけてきた点を考えても、携帯3社が大容量プランの料金引き下げに踏み切る日はそう遠くなさそうだ。

ファーウェイ規制、漁夫の利 米中摩擦の代理戦争

アップルとファーウェイの関係は米中貿易摩擦の代理戦争のようだ。長年スマホ市場でしのぎを削るアップルと韓国・サムスン電子の2強体制にファーウェイが割って入ったのは数年前のこと。その後に米トランプ政権が19年から段階的にファーウェイへの輸出規制を強化したことで、アップルは漁夫の利を得る。

ファーウェイは部品・ソフトウエア調達に困り、その拡大路線にブレーキがかかった。主要部品の多くを内製するサムスンと異なり、アップルとファーウェイは外部調達に頼る構造が似る。ソニーやキオクシア(旧東芝メモリ)は米商務省へ輸出許可を申請し、ファーウェイ・ショックを緩和しようと動く。

この機に乗じて、他の中国スマホメーカーも行き場を失いそうな日本製部品を求めて列をなしている。部品サプライヤーにとって今回、マイナスの影響ばかりではない。11月には米大統領選挙を控え、米中対立の行方も見通せない。スマホなどのハイテク市場は今後も大国の政治に振り回されそうだ。

電子部品業界は…スマホ向け活性化期待

アイフォーンの新機種投入でスマホ市場の活性化を電子部品各社は静かに期待する。積層セラミックコンデンサー(MLCC)やスマホカメラ用アクチュエーターなど多くの部品をスマホ向けに供給している。

だが、最近は出荷台数の低迷などでスマホ向けは減少傾向にある。5Gの普及で基地局など通信関連向けは好調に推移しており、アイフォーン新機種を含めた5G対応スマホへの期待値は高いとみられる。

5G対応「iPhone」新型モデル。米アップルは全4機種を国内で23日以降順次発売する

一方で、その恩恵は限定的とみる向きもある。楽天証券経済研究所の今中能夫チーフアナリストは「旧機種を使い続けてきた更新需要で新機種の販売台数が増えることが予測される」と前置きした上で、「(電子部品業界への恩恵は)あまり期待しない方がいい」と指摘する。

今中チーフアナリストは「搭載する中央演算処理装置(CPU)の高度化で機械制御から人工知能(AI)制御が可能となるなど、高機能な電子部品に対する需要はさらに減るのではないか」と予測する。