日本の人口規模別「イノベーションディストリクト」を考える

日本の人口規模別「イノベーションディストリクト」を考える

 地域経済のイノベーションの担い手としてベンチャー企業の存在感が増してきた。若者の雇用を生み、既存産業に新風を吹き込む新たなエコシステムの構築が期待される。今までは地方などでベンチャーを単体で支援するという自治体は多かったが、エコシステムを作ることに意識が変わってきたところが増えている。

 日本について考える前に、まずは世界のイノベーションエコシステムの動きについて見てみよう。過去50年ほどはイノベーションのエコシステムはシリコンバレーに代表されるように「郊外型」が多かった。

 これに加え、ここ10年ほどは「イノベーションディストリクト」が世界中で生まれてきている。ディストリクト=地区。だいたい歩いて5分くらいの範囲の中で大企業の新規事業部門やベンチャー企業、ベンチャーキャピタル(VC)、インキュベーターやアクセラレーターなどが集まり、密なコミュニケーションを取りながらイノベーションを起こしていくという動きである。繁華街や、駅、港町では港近くの廃倉庫などが使われることもある。アメリカやヨーロッパで特に広がっている。

 イノベーションを起こしエコシステムを構築するためには何を集めなければいけないのかというと、「アイデア」「カネ」「優秀な人材」。「郊外型」では大学のキャンパスに集中していたが、それが街中へと広がってきている。

 中心になる駆動役は大きく3つに分けられる。シリコンバレーのように大学が中心となるもの、イスラエルやシンガポールのように政府が主導となるもの、シアトルのマイクロソフトのような大企業型のものがある。「日本はそういった流れに敏感に反応してきたわけではない。遅ればせながら、ここ数年で少しずつ意識が向いてきたという感じだ」とトーマツベンチャーサポートにて全国のベンチャー企業の支援を長年担当してきた同社地域イノベーション事業部長前田亮斗氏は見る。

 日本におけるエコシステムのモデルは主に4つに分けられる。
     
 「ローカルベンチャーモデル」では、地域おこし協力隊の制度を活用し、起業家マインドを持った人材に移住してもらって、その地域での起業を支援するという動きが10地域ほどに広がっている。自然環境を生かしたビジネスや、サテライトオフィスを誘致するなどの活発な動きがある。


 一方、日本では10〜30万人規模の地域でイノベーションを起こすのが難しく、同時に必要とされている。理由としては、一定程度の街の規模があり、危機感が薄く、ステークホルダーも多く存在し、身動きがとりづらいなどが挙げられるだろう。

 この規模で成功してきているのは宮崎県のいくつかの市。都市部で活躍していたプレイヤーがUIJターンしたり、東京から遠隔でプロジェクトに関わっている。その活動を地元の名士が支えている。

 県単位では「宮崎スタートアップバレー」という民間団体を設立して起業をサポート。学生向けの起業講座や地銀と連携してファンドを設立したり、廃校をリノベーションしベンチャー企業の集積を進めている。

 大都市に隣接する中規模都市は、「大都市のサテライト」のような立ち位置になっているところもある。就労は都市で、という考えになる人も多いのだろう。しかしそんな都市でも「テーマ設定次第でエコシステムを作っていける」という。

 例えば福岡市と佐賀市、どちらで起業しようか考えた時、マーケットへのアクセスや支援者の数は福岡市の方が有利。だが農業で起業するのであれば佐賀市の方が環境は整っているかもしれない。新しいエコシステムを作っていくとき、テーマやインダストリーを設定するというのが有効な手段の1つになってくる。

 その成功事例が山形県鶴岡市だ。バイオテクノロジーというテーマを決め、技術ベンチャーを集めてエコシステムを形成し「バイオを研究するなら鶴岡」という環境を作り上げた。

 設定するテーマに関しては、必ずしも元からその地域にあった産業や素材と結びついていなくても構わない。従来の産業が強すぎると外部のものを受け入れられず、新しい挑戦がしづらくなる。いずれにせよ、その地域に一定程度新しいものを受け入れられる素養があることが必要となる。
<全文は「METI Journal」でお読みになれます>

【ファシリテーターのコメント】
特に一次産業はこれから世代交代でイノベーションが急速に進む可能性があり、ベンチャーとの連携も期待される。地方創生がより進めば、選ばれる地域と選ばれない地域が確実に出てくるだろう。地方には余白しかない。東京では思いつかないようなイノベーションがたくさん起きる可能性をまだまだ秘めている。
前田 亮斗

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