―[S級グルメ]―

 緊急事態宣言が終わり、ようやく東京にもバーが帰ってきた。しかも強力なフードを携えて。バーが創り出した東京のハンドフード決定版はこれだ!

◆一流バーで食べる夜の満腹フード

 東京に「バー」が帰ってきた。

 あの名ハイボールバー、銀座「ロックフィッシュ」も6月1日、店名のマクラを「バー」から「お食事処」に変えて再出発を切った。

 名物店主の間口一就さんが休業を決めたのは、総理大臣が緊急事態宣言の会見を行った4月6日。翌日から店の扉は閉ざされた。

「500万円近く用意してあった運転資金はみるみる溶けて、2か月ですっからかん。再開時の仕入れ用の資金は、ギフトでいただいた商品券を換金したほどです」

 再開後、銀行に売り上げを入金しに行ったら、「うっかり振り込みそうになった(笑)」ほど仕事の流れを忘れていたという。

「休業中は主に再開後のことを考えていました。開店時間を早めるとなると、ランチも必要だな、とか。自宅では新メニューの試作を繰り返していました」

 使うパンは心に決めていた。昭和10年創業の本駒込の老舗「オリムピックパン」の「角食と丸いのと、長いやつ」。角食は焼かずに玉子サンドに。「丸いの」はハムカツサンド、そして「長いやつ」は「ポークかつバーガー」に仕上がった。

「豚肉は築地の近江屋で5㎜に切ってもらって、衣づけまでやって冷凍しておく。こうすると2分揚げでバーガーにぴったりになる」

 カウンターには透明のアクリル板を設置し、テーブル席には間仕切りとしてロールスクリーンを導入した。その代金、60万円也。

 創業から18年間、閉店後の床の拭き掃除は一日も欠かしていない。

「最初、誰も来なかったバーでも床を拭き続けたら、お客さんが来てくれるようになったんです」

 積み上げた月日は裏切らない。

▼お食事処 ロックフィッシュの「ポークかつバーガー」
カツとバンズの食感の相性もピタリ。開業18年にして「夢の2口コンロが入れられた(笑)」とこちらも揚げ物のハムカツバーガーもメニュー入り。ともにピクルス、ポテサラ付きで1300円(税込み)

◆バーから「食堂」へ、そして再びの「バー」へ

「バー シャンクス」も4月から6月上旬まで「シャンクス食堂」とも名乗っていた。店主の芳賀雅紀さんは「自粛要請に沿っていたし、もともとフードも出していた」が念のため店名に反映させた。

「バー仲間から『バーはまずいみたい』とか聞いて、都には7回電話で問い合わせたけど、どの担当さんからも『ご協力ありがとうございます』『よろしくお願いします』とけんもほろろの対応でした(笑)」

 この店はカレーなどフードの人気も高い。実際「食堂」の期間もテイクアウト客がひっきりなしの日もあったという。

 看板の「テントバーガー」はウッドチップとローズマリーを炎で燻し、テントに見立てたバーガーラップで全体に煙を回す。ここにしかない、燻製ハンバーガーだ。

「’14年までは、かなり本格的に煙香をつけるようなスタイルだったんですが、すぐ召し上がっていただくならほんの数秒くぐらせればいいことに気づいたんです」

 合わせるドリンクも、旬のフルーツを使ったオリジナルカクテルや国産のクラフトビールなど、フードとの相性にも気遣いが感じられるラインナップばかり。

「今年は小さなクラフトビールメーカーが本当にきつそうでした。何しろ飲食店が営業できないので、ビールが卸せない。ささやかながら、ウチも仕入れた10万円分のクラフトビールを一人1本限定で無料配布させてもらいました」

 絶品ハンドフードと喉越し最高のドリンクの相性はもちろん抜群。この出合いを生み出す源は、「バー」に吹いた逆風にも負けない、強いハートだったのかもしれない。

▼バー シャンクスの「テントバーガー」
オリーブオイル香るパンの名店「峰屋」のバンズにポークパティとチーズ、トマト、ポテトを挟んで、燻す。名物フルーツカクテルの「塩レモンハイボール」もテントバーガーと同じく1100円(税別)

◆“新しい様式“に変化をし始めたバー

 ホニャララバーはさておき、まっとうなバーはさらなる安全、安心を目指す。ロックフィッシュのカウンター正面に吊られたアクリル板は、140〜180㎝の高さ。左右の仕切りは、もともとカウンターに置かれていた古書で挟まれていて、その存在感は限りなく透明に近い。

 シャンクスも入り口脇の両開きの木窓を開け放ち、明るい時間には明治神宮の境内を望むことができる。安全と安心を携えて、バーの楽しみ方にも新しい様式がやってくる。

<取材・文/松浦達也 撮影/織田桂子>

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